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転生内親王は上医を目指す  作者: 佐藤庵
第81章 1928(大正13)年冬至~1928(大正13)年処暑
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万智子のお見合い

 1928(大正13)年7月8日日曜日午後0時5分、東京市麹町区永田町2丁目にある内閣総理大臣官邸。

「本日は、有栖川宮(ありすがわのみや)の若宮殿下と内府殿下と女王殿下、そして殿様と奥方様と若様においでいただきまして、誠にありがとうございます」

 官邸の小食堂で、見事な白髪に覆われた頭を深々と下げたのは、この官邸の主、内閣総理大臣の原さんだ。黒いフロックコートを着た彼の顔は、明らかに強張っていた。

「あの……原さん、もう少し、気楽にやってもらっても……」

 有栖川宮家の紋が入った空色の和服を着た私が、原さんに声を掛けると、

「そうですよ、原閣下。それに、その、“殿様”というのも、やめてくださいといつも申し上げておりますが」

私と兄の昔馴染みで、兄のご学友でもある侍従武官の南部利祥(としなが)さんが、少し顔をしかめながら言う。更に、

「僕も、“若様”と呼ばれるのは、ちょっと……」

南部さんと妻の萬子(かずこ)さんの長男、15歳の利光(としみつ)君もこう言うと、精悍な顔を下に向けた。

 すると、

「何をおっしゃいますか!世が世でございましたら、殿様は盛岡藩を統べるお方、そうでなくても、鎌倉時代より続く南部家の第42代の御当主であらせられるのです!そして、我が原家は、南部家に代々仕えておりました。主家のご当主を殿様とお呼び申し上げて、何が悪いのでしょうか!」

原さんは顔を上げ、南部さんに向かって力説する。「いや、その……」と原さんの勢いに押される南部さんの前に、

「まぁまぁ、原閣下。時間が惜しいですから、早く食事会を始めてください」

海兵の紺色の通常礼装を着た栽仁(たねひと)殿下が右手を伸ばし、原さんを止める。栽仁殿下の言葉に、原さんも冷静さを取り戻し、栽仁殿下と私の長女・万智子(まちこ)と、南部さんの長男・利光くんとのお見合いを兼ねた昼食会は無事始まった。

 万智子のお見合い相手が決まったのは、今年の4月上旬だった。

 私が非番で出勤していなかった日の午後、兄は南部さんと一緒に馬に乗り、御苑の桜の花を見て回りながら馬を歩かせていた。南部さんが、兄と雑談をしながら馬を進めていると、

――そう言えば、南部は伯爵だったな。それに、息子が2人いたが……長男はいくつになった?

兄が突然、南部さんにこう質問したそうだ。

――はい、あと数日で15歳になります。今は幼年学校の第2学年に在籍しておりますが……。

 南部さんが素直に答えると、

――ほう。

兄は目を異様に輝かせ、

――なぁ、南部。これはあくまで、仮定の話だが……もしお前、予備役に回ったら、何をして過ごす?貴族院の議員になるのか?

南部さんに更にこんな質問を投げたらしい。

――予備役に回ったら……ですか。私は死ぬ時まで、武官として陛下のおそばで奉仕したいと願っておりますので、余り考えたくないことではありますが、もしそうなってしまったら、旧盛岡藩領で暮らす者たちの教育のために、できることをやるでしょう。例えば、基金を設立する、とか……。

 南部さんは、兄と東宮御学問所で学んでいた時代、兄と共に様々な困難を乗り越えた、兄が心を許す人の1人である。奇妙な質問に、南部さんが戸惑いながらも本心を包み隠さず答えると、

――では、政治の世界には、絶対手は出さないな?

鋭い目つきになった兄は、南部さんにこう尋ねた。

――政治に手を出すなど、絶対にありえません。私は立憲改進党の桂閣下や、亡くなられた山縣閣下のように、政治家としてやっていく器量は持ち合わせていない軍人です。ですから、予備役に回ったとしても、貴族院の議員になることはありません。

 南部さんがキッパリと言い切ると、

――そうか……そうか!

たちまち笑顔になった兄は、

――章子!万智子の嫁入り先が見つかったぞ!今から盛岡町に行く!

と、歓喜の声を上げながら、乗っている馬に鞭を入れようとした。

――おやめください、陛下!このまま飛び出されると、鈴木武官長に大目玉を食らいますぞ!

 南部さんが身体を張って必死に兄を止めてくれたので、兄が馬で私の自宅にアポなし行幸するという大惨事は発生しなかったのだけれど……。

 それはともかく、兄が提案した万智子の縁談に、我が有栖川宮家は諸手を挙げて賛成した。南部さんが伯爵なのは、私も、そして義父の威仁(たけひと)親王殿下ももちろん把握していたけれど、私が普段から表御座所で一緒に勤務しているせいで、彼の家が万智子の嫁入りに適した家だという認識が完全に欠落していたのだ。

――これは、完全に見落としていましたね。

――ああ、まさに“灯台下暗し”。しかし、これはかなりの良縁だぞ。

 夫も義父も、降って湧いた万智子の見合い話に喜び、“是非話を進めたい”と兄にも、そして相手の南部家にも伝えた。

 一方、自分の長男の縁談を突然持ちかけられた南部さんは激しく困惑し、

――維新の際、賊軍であった我が家に、女王殿下がご降嫁なさるなど恐れ多すぎます。この話は無かったことにしていただきたい。

と、兄に何度も訴えた。しかし兄は辞退を許さず、原さんに命じて南部さんを説得させた。盛岡藩の家老の家の出身である原さんは、南部家の家政顧問を務めている。帝国議会で野党・立憲改進党の議員たちと激しい論戦を繰り広げている原さんに、南部さんが言い負かされないはずはなく、

――当人同士を会わせてみて、互いが気に入ったら話を進める……ということにしていただきたい。気に染まぬ相手に女王殿下がご降嫁なさるというのは、大変申し訳ありませんから……。

最終的に、南部さんは原さんにこのような返答をした。それで今日、内閣総理大臣官邸で、万智子と南部利光くんとのお見合いが行われることになったのだ。

(大きくなったわねぇ……)

 オードブルを口に運びながら、私は利光くんの様子を観察した。私の次男・禎仁(さだひと)と学習院で同じ学年だった利光くんは、中等科を1年で中退し、幼年学校に入学した。たまに盛岡町邸に来て禎仁と遊んでいた初等科の頃とはだいぶ様子が変わり、禎仁よりも大人びている印象を受けた。

(利光くんのことを禎仁に聞いたら、“真面目過ぎる奴だから、きっと姉上のことを大事にしてくれるよ”なんて言っていたけど……。まぁ、金子さんの調査でも、特に気にかかることはなかったし、万智子の結婚相手としては申し分ないわね)

 頭の中で結論を出した私は、今度は自分の娘の方に目を向ける。水色の和服に紺色の女袴を付けた万智子は、どこか可愛らしさを残しながらも美しい。そして、気品ある態度で、一同の会話に加わっているけれど……。

(世間での万智子の評判って、どうなのかしらね。私のせいで、妙なことになってなければいいけれど)

 軍医として、内大臣として、この時代ならあり得ない人生を突っ走ってきた私という存在は、この時代でもてはやされがちな“良妻賢母”とはまるで異なっている。それが娘の万智子の評判に、そして今回のお見合い話にどう影響するか……母親としては不安でたまらない。

 私の心配をよそに、お見合いを兼ねた昼食会は和やかに進む。……そうだ。ここで私が暗い顔をして、場の雰囲気を壊してしまったら、上手くいくものも上手くいかなくなってしまう。私は不安を急いで心から追い出し、会話に集中した。


 デザートを含め、全ての料理が出されると、交わされる会話は次第に大人にしか分からない複雑なもの……例えば、社交界の話題や政治の話に切り替わっていく。原さんが、上手く話題を誘導しているのだ。この後の展開が読めた私は、少しドキドキしながらも、素直に原さんの誘導に従った。

 10分ほどすると、デザートを食べ終えた利光くんが、ほんの少しだけ顔をしかめる。恐らく、会話の意味が上手く取れないところがあって、話についていけないのだろう。これは、と私が感じた瞬間、

「若様」

原さんが利光くんを呼んだ。

「だから、“若様”というのはやめてください」

 渋い顔をした利光くんの言葉は意に介さず、原さんは笑顔を利光くんに向けると、

「女王殿下は、この官邸へのご訪問は初めてでいらっしゃいます。案内をして差し上げたいのですが、わたしは最近足を痛めてしまいまして、長い距離を歩けません。大変申し訳ないのですが、わたしの代わりに、この官邸の庭園を女王殿下にご案内していただけませんか?」

と、丁寧に依頼する。万智子は何かを察したのか、姿勢を正すと利光くんの方を向き、「よろしくお願いしますわ」と言って一礼した。

「で、では……」

 顔を強張らせた利光くんは、軽く頷いてから椅子を立ち、小食堂のドアに向かう。万智子が席を離れ、ドアに近づくのを確認すると、利光くんは「こちらです」と頭を下げ、万智子と一緒に小食堂から出て行った。

「……大丈夫かしら」

 利光くんと万智子の姿が見えなくなると、私は大きなため息をついた。

「大丈夫か……とは?」

 首を傾げた南部さんに、

「うちの子が、利光くんに無礼なことをしないかしら、ってことですよ」

私は答えると、またため息をつく。

「あと、倒れるようなことにならないか、というのも心配ですけれど……まぁ、私じゃないからそれはないか」

 私が不安を更に吐き出すと、

「それは大丈夫だよ。万智子は章子さんみたいな、とんでもない奥手じゃないから」

栽仁殿下がニヤニヤ笑いながら言う。

「……分かってはいるけど、他人に言われると、ちょっと辛いわね」

 私が両肩を落とすと、南部さんが一瞬だけ表情を崩した。

 と、

「若様は、女王殿下に、将来のご夫君として認められるのでしょうか……」

テーブルの上に両肘をつき、祈るように両手の指を組み合わせた原さんが、暗い表情で呟いた。

「そんなに心配しなくてもいいんじゃないかしら?」

 南部さんの奥様・萬子さまがおっとりと応じると、

「僕もそう思います。利光くんはしっかりしています。万智子が気に入らないということはないでしょう」

栽仁殿下も穏やかな声で原さんをなだめる。

(まぁ、原さんの気持ちは分かるけどさぁ……)

 南部藩の家老の家の出である原さんにとって、南部家は、今でも忠誠を捧げるべき大切な主家だ。その主家の若君が、有栖川宮家の女王殿下と無事結婚できるかどうか……それは原さんにとって、とても大事なことなのである。

(でも、原さんはこのお見合いの世話人みたいなものなのだから、もうちょっと、こう、冷静に……)

 私が思いを音声に変換しようとした瞬間、

「内府殿下」

原さんが、強い視線を私に向けた。

「はい?」

 キョトンとしてしまった私に、

「女王殿下のことが、ご心配ではございませんか?」

原さんは身を乗り出しながら尋ねる。

「そりゃあ、心配ですけれど……」

 私が原さんに応じると、

「一緒に参りましょう」

原さんは私をギラギラする目で見つめた。

「ほへ?」

「ご一緒に、若様と女王殿下のご様子を見に参りましょう、と申し上げているのです」

 私の間抜けな反応に苛立ったのか、原さんは私の方に更に身を乗り出す。彼の身体から発する気迫はすさまじく、

「あ、ひゃ、ひゃい」

私は操られるように椅子から腰を浮かせ、小食堂から出て行こうとする原さんの後ろについて歩き始めた。

「待って、章子さん!僕も行く!」

 ただならぬ様子の私を案じてか、栽仁殿下も席を立ち、私に追いつくと私の右手を握った。

 総理官邸の日本庭園に出ると、池のそばで向かい合って立っている利光くんと万智子の姿が見えた。私たちの先頭にいた原さんが植え込みの陰に隠れ、そっと2人の様子を窺う。私と栽仁殿下も原さんに倣い、茂みの陰に隠れると、利光くんと万智子の方に視線を向けた。

「女王殿下、単刀直入にお伺いします」

 幼年学校の制服を着た利光くんは、池のほとりで向かい合う万智子に言った。

「本当に、僕と結婚してもよろしいのですか?」

「私は構いませんわ」

 万智子は利光くんに微笑んで答えた。

「女学校の同級生には、会ったことも無い方と婚約して、結婚式の時に初めてその方とお会いするなんて方もいますもの。私は見知った方がお相手ですし、こうして顔合わせの席も設けられたのですから、幸運だと思いますわ」

「……」

 私は黙って娘の言葉を聞いていた。最近は、恋愛結婚する人も時々いるけれど、今の時代はお見合い結婚が基本だ。

「しかし、我が家は伯爵家ではありますが、暮らしはそんなに楽ではありません。少なくとも、宮家のように恵まれた暮らしは、我が家に嫁げばできなくなります。それでもよろしいのですか?」

 万智子に更に問う利光くんの様子を見て、

(しっかりしてるわねぇ……)

私は首を縦に振った。利光くんは、禎仁と同じ学年だから、私の時代風に言えば中学3年生だ。それにも関わらず、彼は自分の家の状況を把握した上で、異なる生活環境にいる万智子のことを気遣っている。私は利光くんに拍手したくなった。

「それは構いませんわ」

 万智子は微笑みを崩さずに言う。

「私、大概の家事はできます。掃除に洗濯、料理に縫い物……他の方に言うと、“なぜ女王殿下が”と驚かれますけれど。それに、嫁ぎましたら、私はご家風に合うように己を変える覚悟でおります。ですから、ご安心ください」

「あ、いえ、そこまでのことは……」

 万智子の答えに、利光くんはやや気圧されているようだ。「これは間違いなく、利光くんが万智子の尻に敷かれるね」と栽仁殿下が小さな声で言った。

「……もう1つ、よろしいですか」

 少しの間、うつむいて口を閉じていた利光くんは、やがて、顔を上げると万智子に話しかけた。「なんなりと」と応じて微笑む万智子に、

「我が南部家は、維新の時、官軍に弓を引いた賊軍でございました」

利光くんは暗い声で言う。私の胸を微かな痛みがかすめた時、

「……そんな賊軍の家に嫁がれても、女王殿下はよろしいのですか?」

利光くんは万智子にこう尋ねる。彼の縋るような瞳は、私の娘にじっと向けられていた。

 明治維新から、60年が経とうとしている。東北地方の人々を“逆賊”“賊軍”と蔑む風潮はなくなってはきているけれど、一部では根強く残っていることも事実だ。ひょっとしたら、学習院や幼年学校で、利光くんが“逆賊の子”などと言われていじめられるようなこともあったのかもしれない。

 すると、

「ふふっ」

万智子が小さな声で笑った。

「な、何がおかしいのですか」

 目を怒らせて、声を荒げた利光くんに、

「おかしいわ」

万智子は動じることなく返すと、

「だって、維新の時の“官軍”“賊軍”なんて、本当はありませんもの」

そう言って微笑んだ。

「母は以前、私や弟たちにこう言いました。“戊辰の役以降、この国で起こった戦で流れた血は、全て先帝陛下を大切に思ってくれた人たちのもの。しかし、意見の違いがあって、悲しいことだけれど、敵味方に分かれて戦わざるを得なくなり、勝ち負けがついてしまいました。だから本当は、官軍・賊軍などという区別はないのです。私は常にそう思って、天皇陛下のご慰霊に供奉しています”と……。母の娘である私も、もちろん同じ気持ちです」

「!」

 利光くんの両目が見開かれる。2人の様子を見守っていた私も目を瞠った。自分の子供が、自分の思いを受け継いでいる。目頭が、自然と熱くなった。

「ですから、利光さまは、私をお嫁にもらって、私と仲がいいのを見せつけながら、頭の古い方々に言ってやればよいのですわ。“もう、官軍、賊軍なんて言っている時代ではないんだぞ”って」

(え?!)

 私なら、こんな言葉を、うろたえずに言える自信が無い。けれど万智子はあでやかに微笑みながら、堂々とした態度で利光くんに言う。私が目を白黒させた瞬間、

「女王殿下―っ!」

私の隣にいた原さんが、大声で叫びながらその場に平伏した。

「ちょ、は、原さん!」

「いけませんよ、そんな大声を出しては!」

 横から私と栽仁殿下が小声で注意したのにも関わらず、原さんは頭を下げたまま、

「お母上と同じく、戊辰の役で戦った者たちを敵味方の区別なく思いやり、慈悲を垂れ給うそのご態度……この原、感服致しましてございます!」

と叫んで号泣する。

「は、原の爺?!じゃない、原閣下?!」

「やだ、原のおじさま?!父上も母上も、どうしてこちらに?!」

 原さんの魂からの叫び声で私たちに気が付いてしまった利光くんと万智子に、

「まぁ……その、心配になって、ね」

茂みの陰から出た栽仁殿下が、きまり悪そうに言い訳する。そして、軽い咳払いをすると、

「それで……利光くんも万智子も、結婚の話は進めていいのかな?」

真面目な表情になって尋ねた。

「はい、父と母が許せば、是非……」

 こちらにきちんと頭を下げる利光くんに、

「許されるに決まっておりましょう!万が一、殿様と奥方様がご婚約に反対なさるのであれば、この原の爺が若様のため、殿様と奥方様を説き伏せてご覧に入れます!」

原さんは立ち上がり、涙を流しながら利光くんに請け負う。「だから、“若様”っていうのはやめてください」と力無く反論する利光くんのそばで、

「私は構いません」

姿勢を正した万智子がしっかりとした口調で言った。

「分かった。まぁ、実際に結婚するのは、利光くんが士官学校を出てからだから、何年か先になるよ。……じゃあ、建物の中に戻ろうか」

 頷いた栽仁殿下に「はい」と揃って返事をすると、利光くんと万智子は池のほとりから歩き出す。2人の後ろに、原さんが忠実な執事のように付き従っていた。

「……驚いたわ。まさか万智子が、あんなことを言うなんて」

 先に歩く3人の後ろ姿を見ながら私がため息をつくと、

「“私と仲がいいのを見せつけながら”ってやつ?」

栽仁殿下は微笑んで言う。

「僕が万智子だったら、同じことを利光くんに言ったよ」

「う、嘘でしょ?!」

 目を丸くした私に、

「それよりさ……僕は、万智子が、“官軍・賊軍なんて本当はないんだ”って、梨花さんと同じことを言い出したのに驚いたよ」

栽仁殿下は澄んだ瞳を向けて感想を述べる。

「そう?……でも、言ってもおかしくはないわよ?あの子たちが学校で、戊辰の役のことを習っている時には、私、必ずそういう話はしたから……」

 私が栽仁殿下にこう応じると、「そっか」と彼は笑い、

「じゃあ、万智子は、僕と梨花さんのそれぞれの気質を受け継いだんだね」

と言った。

「そうね」

 私は利光くんと、彼と並んで歩く万智子の姿をもう一度見つめた。あいにく、空は梅雨特有の、低く垂れこめた雲に覆われていたけれど、私たちの先を歩く2人は、太陽のように輝いて見えた。

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会津藩出身で東京帝国大学の山川健次郎総長は会津藩の姫が宮家に嫁がれたときに 「会津は許された」 と涙を流されたそうです。 宮家に嫁ぐと宮家から嫁ぐ、で今回とは逆の立場ですね。
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