谷保天満宮(2)
午後0時15分。
天満宮の拝殿前の、小さな広場にやって来ると、私は大きく息を吐いた。広場の脇には、ご神木と思しき大きなイチョウの木が生えている。そして、拝殿の周りにも、広場の周りにも、鬱蒼とした林があり、拝殿と広場に涼しい木陰を作っていた。
「ふう……」
賽銭箱にお賽銭を入れ、作法通りに参拝すると、私は深く下げた頭を上げ、少しだけ扉が開かれた拝殿の奥をぼんやり眺めた。
(私、どうしたらいいんだろう……)
振り返ると、昨年のお正月、高輪御殿で談笑する栽仁殿下と允子さまを見て、允子さまに嫉妬してしまった時には、私は栽仁殿下のことを、好きになっていたのだろうと思う。けれど、その時動揺を受けたのは、恋をしているからだとは思わなかった私は、自分の動揺を抑えるべく、必死に仕事と剣道に打ち込んだ。恋をしていると気が付いた後も、栽仁殿下は妹たちの夫になるのだから、私が思いを寄せてはいけないと思って、必死に恋を諦めようとしていた。そうやって、ずっと心を抑えてきたのに、突然、栽仁殿下は私の婚約者になってしまった。普通なら、小躍りして栽仁殿下との距離を縮めるところなのだろうけれど、不器用な私は急には動けない。
(それに、距離を縮めろったって、どうすればいいのよ……男性との交際経験、ゼロなんだぞ、私……)
そう思った時、すぐ近くで柏手を打つ音がした。振り返ると、私のそばに、海兵士官学校の白い詰襟の制服を着た青年が立っていて、拝殿に向かって深くお辞儀をしている。
(栽仁殿下……なんで?!)
余りにも不意打ち過ぎる。態勢を立て直さなければならない。私がそっとその場を離れようとすると、
「あ、あの!」
頭を上げた栽仁殿下が、大声で私に呼びかけた。
「どうしてお逃げになるんですか?!」
「ど、どうしてって、心の準備が……」
走り出そうとした瞬間、栽仁殿下が素早く私の前に立ちふさがる。その脇に抱えられている細長い包みが視界に入り、私は思わず目を見張った。この刀袋の色には、見覚えがある。
「な、なんで、大典太光世がここに……」
私は一歩後ろに下がった。
「困ります!返されても困ります!それは……それは、あなたに持っていて欲しいものなのに!」
首を横に振りながら、更に後ろに下がろうとすると、
「待ってください!」
栽仁殿下が私の右手を掴んだ。
「?!」
(て、……手、握られたぁーー?!)
診察カバンさえ持っていればつかまれていなかったはずの手を突然つかまれ、大混乱に陥った私に、
「落ち着いてください!そうじゃありません!」
栽仁殿下は緊張した表情で必死に呼びかける。
「む……無理……落ち着くとか……混乱して、無理……」
ようやくこれだけ言葉を絞り出すと、
「ああ、そうか……申し訳ありません。不作法なことをしてしまって。ここで逃げられてしまうと、お話が出来なくなると思って、つい……」
栽仁殿下が手を握ったまま、礼儀正しく頭を下げる。
「あのイチョウの下で、話を聞いていただけますか?なぜ、この刀が、ここにあるのかという話を」
申し出に、何とか首を縦に振ると、栽仁殿下は私を、大きなイチョウの木の下に連れて行った。
「あの」
「ひゃ、ひゃい」
栽仁殿下に変な返事をしてしまい、私は慌てて左手で口を押えた。そんな私に、
「ここに大典太光世を持ってきたのは、ご提案をしたかったからです」
と、彼は私の手を握ったまま、真剣な表情で告げた。
「て、提案……?」
「はい」
一つ頷くと、栽仁殿下は少し上ずった声で話し始めた。
「この刀を僕に下さったのは、非常にありがたいのです。しかし、僕はまだ学生ですから、軍刀を使う機会がほとんどないのです。それに、江田島の別邸の職員たちでは、この刀の手入れが出来ません。ですから、父と手紙で相談して、この刀は5月の下旬に東京の本邸に移動させました」
「じゃ、じゃあ、この刀、あなたのじゃなくて、大兄さまのになった、ってことなの……?!それは……それは困ります!」
必死で首を左右に振ると、
「落ち着いてください。この刀は僕のものです」
栽仁殿下はキッパリと言った。
「この刀、誰に譲れと言われても、譲るつもりはありません。他ならぬあなたからの、大事な贈り物ですから」
「へ……?」
「提案というのは、この刀を、あなたと2人で所有しませんか、ということです」
キョトンとした私に、栽仁殿下はこう言った。
「2人で……?」
「はい。この刀は、僕にこうして贈られるまで、あなたのことを、病気やケガから守っていたのだと思います。けれど、この刀が僕のところにあるために、あなたの健康が損なわれるのだとしたら、僕はそれに耐えられません。あなたは、そうなったら自分で治すとおっしゃったけれど、僕は、そんな事態になること、そのものが嫌なんです。だから、この刀は、あなたと僕、2人で所有することにしたいんです。そうしたら、僕もあなたもこの刀に守られて、健康でいられます。それに、僕も江田島にいる間、刀の手入れをあなたに任せられますし」
「だから……だから、私と、け、結婚したいって、言ったんですか……?」
小さな声で質問すると、
「違います」
栽仁殿下は私に一歩歩み寄り、真正面から私の瞳を覗き込んだ。
「あなたを……あなたを、愛しているからです」
「う、うにゃああああ?!」
思わず驚きの声を上げた私に向かって、
「幼いころから、ずっとあなたに憧れていました。お優しくて、お強くて、お美しくて、ご聡明で……」
栽仁殿下は真剣な表情を崩さず、自らの思いを私に語り始めた。
「幼心に決めておりました。将来、あなたをそばで守るのだと。それなのに、ならず者たちに襲われた時、かえって僕が、あなたに救われてしまって……」
(白袴隊に襲われた時のことかな……?)
まだ、私が華族女学校に通っていたころのことだ。美少年を襲って手籠めにするという不良男子学生の集団に、栽仁殿下と、北白川宮輝久王殿下が襲われかけていたのを、仕込み傘を抜いて救ったことがある。
「だから絶対、今度はあなたを守るのだと決めていたのに、またあなたに、命を助けられて……本当に情けないです」
「違う!」
うつむいた栽仁殿下に、私は思わず叫んだ。
「情けないなんて思う必要はない!虫垂炎になるのは不可抗力なんだから、自分を責めちゃダメ!それは医者として、ハッキリ言っておくわ!それに……、それに、私だって、あなたに助けられたんだ。コンノート公が来日した時の、晩餐会で……」
酔っぱらってしまい、意識を失いそうになっていた私を、栽仁殿下は助けてくれた。あの時、どうやってベッドまで運ばれたのかは覚えていないけれど、意識を失う刹那、栽仁殿下が抱えてくれたのは、微かに記憶に残っている。あの時から、私は栽仁殿下を“弟分”ではなく、1人の男性として意識してしまったのだろう、そう思うけれど……。
(あの時、たぶん……お姫様抱っこ、されちゃったん、だよな……)
思い返して、身体がかあっと熱くなった時、
「あの、増宮さま」
栽仁殿下が“姉宮さま”ではなく、“増宮さま”と私を呼んだ。
「ひゃ、ひゃい」
飛び上がるようにして返事をすると、
「今回の婚約の話、急なことで本当に驚かれたと思います。まして、あなたは色恋が苦手でいらっしゃるのに、突然話が進んでしまい、本当に申し訳なく思います」
栽仁殿下が私に向かって頭を下げた。
「い、いや、あの、なんで、私が、恋愛が苦手だと、知ってるの……?」
「見ていれば分かりますし、ご自身でもそうおっしゃっていたではないですか、バイエルンのマリー妃殿下に。ドイツ語でしたけれど、大山閣下が翻訳してくださったから分かりました」
栽仁殿下の顔に、微笑が一瞬閃く。
「だから僕も、あなたに求婚するのは、せめて自分が少尉になってからにしようと思っていたのですが、4月にあなたが、僕に帰京の挨拶をなさった時、……とてもお辛そうな顔をなさっていました」
「え……」
「この上もない笑顔なのに、その下で、この世のすべてに別れを告げていらっしゃるような……すごく、すごくお辛そうな顔でした」
確かに……あの時は、栽仁殿下に別れを告げなければと思っていたのだ。彼が体調を崩せば、私が治療しなければならない。けれど、彼に恋心を抱いてしまった私は、もう彼を冷静に治療することは出来ない。だから、大典太光世さえ渡しておけば、彼はずっと健康でいられて、私も彼を治療しなくて済むのだ、彼は妹たちの誰かの夫になるのだから……そう思って、自分の気持ちに必死にケリを付けようとしていた。
「居ても立っても居られなくなりました。一刻も早く、あなたをそばで守らなければいけない、そう思いました。だから、輝久たちも説き伏せて、父も説き伏せて、あなたとの婚約を……」
自分も辛そうに言った栽仁殿下は、また私の瞳を正面から見つめた。
「なぜ、あのようなお顔をなさったのですか?」
(?!)
心臓が身体の中で飛び跳ねたような感覚に襲われた私に、
「誰かに脅されているのですか?それとも、ご体調が悪いのですか?」
栽仁殿下は立て続けに言葉を発する。
「い、いや、そうじゃなくて、その……」
「教えてください。僕は未熟者ですし、あなたの言う“いい男”ではないかもしれませんが、あなたを苦しめるものから、あなたを一生涯守ります。だから……」
「ち、違うの!」
私は喘ぐように叫んだ。「違うんだ……脅されてるとか、体調が悪いとか、そんなんじゃ、ないんだ……」
「では、なぜですか!」
半ば怒っているような栽仁殿下に、
「もう、あなたと、お別れしなきゃいけないって、思ったから……」
私はやっとこう答えた。
「あなたは、妹たちの誰かの、旦那様になるんだと……そう思っていたのに、私……あなたを……好きに、なって、しまって……」
「え……」
「だから、諦めなきゃいけないって、思ってて、……でも、突然、婚約相手があなただって言われてしまって、心が、追いついてなくて……」
「増宮さま……」
栽仁殿下が、呆けたような表情になる。そんな彼に、
「あ、あなた、本当に、私が奥さんで……いいの?」
焼き切れてしまいそうな脳みそを必死になだめながら、私は尋ねた。
「女のくせに医者だし、和歌は苦手だし、男に暴力振るっちゃうし、恋愛も苦手だし、允子さまとあなたが話しているのを見て、允子さまに嫉妬しちゃうし、色々な感覚が、周囲の人間とまるで違うし……見た目はいいかもしれないけれど、“有栖川宮の若宮殿下は、とんでもない外れクジを引いた”って、周りに後ろ指さされちゃうわよ?!」
すると、
「ふふっ」
栽仁殿下が吹き出した。
「どうしてあなたは、自分を罵倒する言葉だと、そんなにスラスラ言えるんですか?」
「え、あ、あの……」
「人の好意に恐ろしく鈍感で奥手なところも、怒るときについ手が出てしまいそうになるところも、嫉妬なさるところも、仕事に打ち込まれるところも、前世の感覚を引きずっておられるところも、みんな、みんな愛しています」
「?!」
思わぬ言葉に、頭の回転がまた止まってしまった私に、
「もしあなたが、千の言葉で自分を罵るのなら、僕は千の、いや、万の言葉で、あなたを褒め称えます。だってあなたは、僕のたった一人の愛する女性ですから、梨花さん」
栽仁殿下は更にとんでもない言葉を投げた。
「う、うにゃああああ?!」
様々な方向から同時に心に衝撃が加えられ、私はその場にしゃがみ込んだ。熱烈な愛の言葉を浴びせられたのも、兄や大山さんと同じように、私が自分を傷つけるのを栽仁殿下が止めたのも驚きだけれど、“前世の感覚を引きずっている”という言葉は、まさか……。
「あ、あなた、私の前世のことを、誰から聞いたの……?」
力なく聞いた私に、
「昨日、陛下から伺いました。……すいません、黙っていようと思っていたのですが、前世のお名前が素敵ですから、つい、口から出てしまって……」
栽仁殿下は私のそばに片膝をつきながら答えた。
「何度も陛下に尋ねられました。“あれは常の女子ではない。国を医す上医となる女子だ。それ故、常の女子より困難な道を歩むことになるだろう。そんな女子を、お前は一生守る覚悟はあるのか”と。もちろん、“ある”って答えましたよ」
「栽仁殿下……」
「あなたがどんな経歴をたどって来たか、世間にどんな風に言われているのか、そんなことは関係ありません。僕は今ここにいるあなたを、梨花さんを愛しています」
「~~~っ!」
こういう時は、どのように答えるのが正解なのだろうか。カッコよく、四字熟語や故事成語でも使って返事をすればいいのだろうか。それとも、和歌の一つでも詠むのがいいのだろうか。気の利いた答えが、全く思い浮かばなかった。
「申し訳ありません。こういうことが、苦手でいらっしゃるのは分かっているのですが、あなたが納得できるまで“愛している”と言わないと、あなたがどこかに行ってしまいそうで、僕、とても怖いんです」
「ど……どこにも、行かないわよ……」
また頭を下げた栽仁殿下に、私はやっと言った。
「ただ、慣れてないの、こういうの……。私、不器用、だから……、気持ちが、ついてこなくて……」
「では、慣れて、お気持ちがついてくるまで、愛していると梨花さんに言い続けます。もちろん、慣れても言い続けますが」
「た、馬鹿……そんな……好きな人に、愛してるって言われるなんて、私、考えたことも、なくて……」
その瞬間、どこか遠くで、雷の鳴る音が聞こえた。
「あ、雷ですね」
「……そう言えば、空も曇ってるわね」
私が空を見上げた時、低く垂れこめた雲の一角に、稲妻が走った。
「うわ、かみな……」
“雷が見えた”と言い終えないうちに、何かが壊れたような大きな音がした。
「近くに落ちた?!」
「避難しましょう、梨花さん!」
「そうね、この木の下にいるとまずい!」
私と栽仁殿下は、急いで拝殿に向かって走る。ほんの10mほどの距離のことなのに、栽仁殿下は私の手をしっかり握っている。
「あの……手は、握ってなくても、いいんじゃないかな、栽仁殿下?」
拝殿の階段を上がりながら、私の婚約者になった人に尋ねると、
「ダメです。僕の愛する人を、しっかり守らないといけませんから」
彼は私に、真剣な眼差しを向けた。
「~~~っ!」
身体がこれ以上ないくらいに熱くなってしまい、私は顔を伏せた。
「だ、だからやめて……心臓、止まりそう……」
「やめません。慣れていただかないと、結婚してから大変です」
「そ、それは、分かるけど!は、恥ずかしいし、身体、熱いし……」
何とか手を握るのをやめてもらおうと、必死に口を動かすと、
「あ、あの」
栽仁殿下が私を呼んだ。
「ひゃ、ひゃい」
「梨花さんと、つい呼んでしまいましたが……構わないでしょうか?」
「あ、ああ……それは、イヤじゃないから、いいけど……。知らない人が聞いたら、ビックリするから、2人きりの時が、いいかな……」
私がそう答えると、
「な、なるほど。確かにそうですね」
と栽仁殿下はぎこちなく頷き、
「では、2人きりではない時は、“章子さん”と呼んで、よろしいでしょうか?」
私にそう尋ねた。
「あ……うん、それは、構わない……。けど、そうしたら、私、あなたのこと、何て呼べばいい?」
「ぼ、僕のことを、ですか?!」
驚いた栽仁殿下に、
「う、うん……今までの、“栽仁殿下”でもいいけれど、どうしても、2人きりの時だと、硬い気がするし、微行に一緒に行く時に、周りに変に思われるかな、って……」
私は拝殿の階段に腰を下ろしながら言った。
「そうですね……呼び捨ては、ちょっといただけませんし……」
同じように私の隣に座った栽仁殿下は、真剣に考え込むと、
「では、“栽さん”とか“栽さま”とか、……いかがでしょうか?」
と私に提案した。
「た、栽……さん?」
口にした瞬間、再び身体が熱くなった。言葉の代わりに、心臓が口から飛び出てしまいそうだ。
「ちょ……無理……誰か、私を、殴って……は、恥ずかしくて、気絶、する……」
「それはダメです!気絶しても、僕が支えますから!」
「い、いや、それ、あなたに、迷惑掛けちゃう……」
「迷惑ではありません。あなたを助けるのは僕の役目ですから」
「そ、そうかもしれないけど、それは流石に、あなたに、申し訳ないし……」
私が必死に言った時、
「ほう、これはこれは……」
突然、境内に栽仁殿下ではない人の声が響いた。
「うちの栽仁と、すっかり仲良くおなりになったようで、増宮さま」
身体を強張らせた私に、拝殿のすぐそばに立った威仁親王殿下が、ニヤニヤ笑いを向けていた。
「あ、いや、これは……」
「よいのですよ、弁明なさらなくとも。将来夫婦になるのですから、手をつなぐぐらいは当然ではありませんか」
「本当に、絵に描いたような美男美女。“あなたを助けるのは僕の役目”とは……仲睦まじくて結構なことでございます」
言い訳しようとする私に、威仁親王殿下だけではなく、彼に追いついてきた山階宮殿下までが、ニコニコしながらこんなことを言う。私の身体はまた熱くなり、鼓動が速くなった。
「ち、父上、どうしてこちらに?」
私の手を握りしめたまま、栽仁殿下が親王殿下に慌てて尋ねると、
「雷雨になりそうだから、拝殿に避難しようと思ったのだ。天満宮を発つまで、お前と増宮さまの邪魔はしないでおきたかったのだが」
親王殿下はこんなことを言う。その言葉通り、大山さんや長岡少将など、遠乗会の参加者たちが、小走りでこちらに向かってくるのが見えた。
「おや、皆さま、拝殿に入られませんのか」
追いついてきた長岡機動少将が、不思議そうな顔をする。
「ああ、そうですね。入らないと、後ろがつかえてしまう。長岡閣下、露払いをお願いできますか?もう少し、増宮さまで遊びたいのでね」
威仁親王殿下がこう言うと、「心得ました」と軽く頭を下げ、長岡機動少将が階段を上がり、私たちの横をすり抜けて拝殿の中へと入っていく。
と、
「……」
拝殿の中に入っていったはずの長岡機動少将が、急にこちらに引き返してきた。その顔が異常に強張っている。額には、脂汗も光っていた。
「ど、どうしたんですか、ヒゲさん?!」
思わず、愛称で長岡少将を呼んでしまった瞬間、
「ば……ば、ばんざーい!」
突然、長岡少将が、両手を高く挙げた。
「増宮殿下のご婚約ご内定、ばんざーい!」
長岡機動少将の大きな声に、
「「ばんざーい!」」
「ばんざーい!」
「「ばんざーい!」」
「ばんざーい!」
「「ばんざーい!」」
広場に入ってきた遠乗会の同行者たちが一斉に両手を挙げ、万歳を三唱した。
(ぐえっ?!)
眼を見開いた私の前で、
「増宮殿下ばんざーい!」
「「ばんざーい!」」
「ばんざーい!」
「「ばんざーい!」」
「ばんざーい!」
「「ばんざーい!」」
長岡機動少将の音頭による、熱狂的な万歳は更に続いていく。
「若宮殿下ばんざーい!」
「「ばんざーい!」」
「……みんなが、祝ってくれてますね」
万歳が続く中、栽仁殿下が私にそっと耳打ちする。
「そうね。……ちょっと恥ずかしいな」
小声で答えると、
「堂々と受けてください。愛するあなたへの祝福なんですから」
栽仁殿下はこう囁き返す。何と返していいか分からなくなった私は、
「馬鹿……」
と小さく呟いたのだった。




