闘技場と商人
「な、何事だ!? いきなり騎士たちが倒れたぞ!?」
観客席では、信也たちの試合を見た観客たちが驚いていた。オルトバルカ王国の騎士団に所属する騎士たちが、たった2人の少年と少女と戦い、たった5秒ですぐに倒されてしまったんだ。モリガンの仲間たちも驚いているけど、俺は扉の向こうに戻っていく2人を見つめながらニヤリと笑っていた。
「おい、旦那! あれは何だ!? あれも旦那たちの世界の武器なのか!?」
「あれは睡眠ガスだ」
「す、睡眠ガス?」
「ああ。睡眠ガスの入った手榴弾を放り投げて、放出された睡眠ガスの中に騎士たちを誘い込んだんだろう。敵は近距離武器しか持っていなかったから、間違いなく突っ込んでくるからな」
信也は、睡眠ガスを防ぐためにガスマスクを用意したんだ。ガスマスクの事を知っていた俺は、すぐにこいつが睡眠ガスを使って戦いをすぐに終わらせる作戦を立てていることを見抜く事が出来た。
ガスマスクを知らないこの世界の人々は、あのガスマスクを変わった仮面だと思ってしまうからな。ミラも変わった仮面だと思っていたみたいだ。
「それにしても、試合が終わるのが早過ぎるぞ」
「これが信也の作戦だよ、エミリア」
「ふむ。あいつは優秀な参謀になるな」
確かに、参謀は天職かもしれない。あいつは非力だけど、作戦を考えるのは昔から得意だったからな。
「ところで、後半の戦いは何時からだ?」
「15分ほど休憩してから魔物との戦いが始まるな」
「なるほどな。さすがに次はあんなに早くは終わらないかもな」
闘技場の入口で配布されていた予定表を見ながら教えてくれたエミリアにそう言いながら闘技場の中を見渡していた俺は、少し離れた客席の後ろの通路から俺たちの方を見ていた1人の男と目が合った。あいつも観客だと思って目をそらそうとしたんだけど、俺はすぐに違和感を感じて再びその男を見つめた。
その男はすぐに俺から目をそらし、通路から移動を始める。
俺はため息をついながら客席から立ち上がると、端末を取り出してサプレッサー付きのMP443を2丁装備し、仲間たちに「飲み物でも買ってくるよ。何がいい?」と聞いた。
「じゃあ、私は紅茶で」
「俺はオレンジジュースで頼むぜ」
『私もオレンジジュースでお願いします!』
「私はアイスコーヒーがいいな。力也、私も取りに行こうか?」
「いや、いいよ。1人で大丈夫だ」
1人の方がいい。
俺はエミリアに「ここで待っててくれ」と言うと、客席を離れて通路の方へと向かった。
さっき俺と目の合った男は、もしかすると俺たちを見張っていたのかもしれない。何故見張っていたんだ?
俺は観客の中に紛れて俺たちを見張っていた男の方へと向かって通路を移動しながら、静かにMP443のグリップに手を近づける。通路を左に曲がって俺はその男が俺たちを見張っていた場所に近づいて行ったんだけど、その見張ってた奴は俺がいなくなったことに気が付いて、慌てて観客の中を見渡して俺の事を探しているようだった。
そして、再びそいつと俺の目が合った。
「!」
男が慌ててどこかへと離れていく。俺もすぐにそいつを追いかけようとしたけれど、飲み物やポップコーンを買いに行くために立ち上がった観客が邪魔で追いつけない。
「くそ・・・・・・」
観客たちの間を通り抜け終えてからその男を探したけど、見失ってしまったらしい。
俺はため息をつきながら手をハンドガンのグリップから遠ざけると、踵を返して仲間たちに頼まれた飲み物を買いに行くことにした。
(シン、次は魔物との戦いだよ。大丈夫?)
「うん。大丈夫だよ」
騎士たちとの戦いはすぐに終わってしまった。15分くらい休憩したら、次は無数の魔物たちと闘技場で戦わなければならない。
僕は次の戦いで使う予定のスモークグレネードを生産するために、控室の椅子に腰を下ろしながら端末の電源をつけた。
≪レベルが上がりました≫
「あ、レベル上がった」
レベルが上がったことで、更に2500ポイントが追加される。僕はそのポイントで武器を作ろうとしたけど、まずステータスを確認することにした。ステータスのメニューをタッチし、僕は強化された自分のステータスを確認する。
攻撃力は128まで上がり、防御力も100を超えて102になっている。同じくスピードも100を超えて115に上がっていた。やっと3つのステータスが100を超える事が出来たらしい。
兄さんの初期のステータスは僕のレベル2の時のステータスよりも高かったらしい。転生者の初期のステータスは同じじゃないんだね。転生する前の身体能力が反映されているのかな?
(私も次の戦いは活躍するよ、シン!)
「うん。頼むよ、ミラ」
彼女は僕よりもかなり強い。彼女のスピードと音響魔術があれば、魔物は簡単に殲滅する事が出来るだろう。
それに、次の魔物たちとの戦いの作戦もちゃんと立ててある。
さすがに次の戦いでは実弾を使うつもりだ。さっきみたいな睡眠ガスは効果があるかもしれないけど、さすがに訓練用のゴム弾は全く意味はない。僕はポケットの中に南部大型自動拳銃のマガジンが3つずつ入っているのを確認すると、端末の画面をタッチし、次の戦いで使う予定のスモークグレネードを1つ生産しておくことにした。
でも。まだポイントは残っている。何か作っておくべきだろうか?
そういえば、必殺技は全然見たことがなかったね。どんな必殺技があるんだろうか? 僕は下の方に会った必殺技のメニューをタッチした。
すると、画面に『通常』と『武器専用』の2つが表示された。武器専用って何なんだ? 僕は通常ではなくそっちをタッチした。
次に画面に表示されたのは、僕がこの端末で生産した武器の名前だった。さすがにレオパルト2A6の名前は並んでいない。
僕はまず、南部大型自動拳銃の名前をタッチした。すると、画面に『スーパーナンブタイム』という必殺技の名前と説明文が表示される。
≪大和魂で集中力を強化し、8mm弾による連続射撃を行う。発動すると周りがスローモーションになる。マガジンの中の弾丸を撃ち尽くすか、10秒経過すると解除される≫
どうやら武器専用というのは、その武器を装備した状態でなければ使用できない必殺技らしい。僕は南部大型自動拳銃専用の必殺技のスーパーナンブタイムを生産してから装備すると、端末の電源を切ってポケットにしまった。
闘技場の中の売店の店員に飲み物代の銀貨を支払った俺は、飲み物のコップを乗せたお盆を持って客席へと戻るために通路を歩いていた。この世界にはペットボトルが存在しないらしく、購入した飲み物は氷の入ったコップに入っているため、零さないように気を付けなければならない。
俺は通路を歩きながらさっきの見張っていた男を探していたけど、通路を歩いているのはトイレに向かう観客や売店で食べ物や飲み物を購入する観客ばかりだ。
観客席に戻るために階段を上がろうとしたその時、俺は4人の男が階段の上に立っていることに気が付き、歩くのを止めた。その中の1人の男は、さっき俺たちを見張っていた男だったんだ。
そいつらは全員腰に剣やサーベルを下げているようだった。
「・・・・・・小僧。お前たちの持っている武器を渡してもらおうか」
腰の鞘からサーベルを引き抜きながら、俺たちを見張っていた男が言う。こいつらの目的は銃を奪う事なのか? まさか、フィリップの手下か?
「―――ムッシュ・フィリップには、武器は渡さないと言った筈なんだけどな」
俺はため息をつきながら、仲間たちの飲み物の乗ったお盆を静かに後ろに置いた。
男たちが剣を引き抜き、切っ先を俺に向けて「いいから武器をよこせ。殺すぞ」と脅してくる。
お盆を置いた俺はホルスターからハンドガンを引き抜いて全員撃ち殺してやろうかと思ったけど、ハンドガンは引き抜かなかった。弾丸が無駄になってしまう。
俺は剣を向けている男たちを睨みつけると―――俺から見て一番右側にいた男の剣を持っている右手に向かって、左足で回し蹴りを叩き込んだ。
「ぐっ!?」
男が剣を落としたのを確認しながら回転すると、その男のみぞおちに右足で後ろ回し蹴りをお見舞いして吹き飛ばす。今度はその男の隣に立っていた男の右腕を両手で掴むと、そのまま背負い投げをして階段の壁に叩き付ける。レンガの壁にステータスで強化された状態の転生者の力で叩き付けられたその男は、呻き声を上げてから気を失ってしまった。
残っているのは、見張っていた男ともう1人の男だった。
「な、なんだこいつは!?」
「くそ・・・・・・!」
片方の男が俺を睨みつけると、持っている剣を振り上げ始める。俺はすぐに走り出すと、その男の剣が俺に向かって振り下ろされるよりも先に、がら空きになっている胴体に右手でボディブローを叩き込んだ。俺に殴られた男の肋骨がめきりと音を立てながらへし折れ、男が呻き声を上げながら崩れ落ちる。
「ひっ・・・・・・!」
俺たちを見張っていた男が怯えるが、俺は容赦せずにそいつの顔面に左のストレートをお見舞いする。殴られた男が鼻血を出しながら反対側の壁に叩き付けられ、そのまま気を失って倒れた。
「はあ・・・・・・」
間違いなく、こいつらを送り込んできたのはフィリップだろう。
俺はため息をついてから後ろに置いておいたお盆を持ち上げると、階段を上がって観客席の方へと向かった。
さっきと同じように、僕たちの目の前に鎮座していた巨大な石の扉が開いた。次に僕たちの相手になるのは、騎士たちではなく無数の魔物たちだ。
僕は既にホルスターから2丁の南部大型自動拳銃を引き抜いていた。僕の隣では、ミラが左手に自分のハンドガンを持ち、射撃する準備をしている。
彼女が使っているハンドガンは、アメリカ製のスタームルガーMk-Ⅲだ。僕のハンドガンは何も装着していないんだけど、彼女はドットサイトとレーザーサイトを装着している。
レーザーサイトを確認し終えた彼女は、隣に立つ僕を見て微笑む。
(いくよ、シン!)
「ああ。頑張ろうね、ミラ!」
メガネをかけ直し、僕はミラと共に再び闘技場の中へと足を踏み入れた。
今度は僕たちの目の前の扉が開く前に、目の前に緑色の魔法陣が表示されてカウントダウンが始まる。確かに、魔物を闘技場に出した状態でカウントダウンを始めるわけにはいかないからね。
カウントダウンが0になり、僕たちが入ってきた扉の反対側にある巨大な石の扉が開き始める。僕は両手の南部大型自動拳銃のグリップを握りしめると、扉の向こうに見えた魔物を睨みつけた。




