力也と信也がギュンターを止めようとするとこうなる
「女湯はあの壁の向こう側か・・・・・・」
体を洗い終え、ゆっくりと一番大きな浴槽に浸かりながら大浴場の壁を凝視するギュンター。彼の目の前にある真っ白な壁の向こう側にあるのは、彼が覗こうとしている女湯だ。壁は天井と繋がっていないため、壁を登れば女湯を覗く事が出来るだろう。
俺と信也も体を洗い終えると、ギュンターの入っている浴槽に浸かり始めた。彼の計画に巻き込まれたくはないんだが、こいつを放っておいたら彼女たちに殺されるかもしれない。
「あの壁を登れれば・・・・・・」
「なあ、止めようぜギュンター。殺されるぞ」
「何言ってんだよ。あの向こうにいる美少女たちの姿を見たくないのか?」
「止めとけって。エミリアとカレンはヤバい」
「大丈夫だ。信也、何か作戦はあるか?」
「とりあえず覗かない方が・・・・・・」
湯気で曇ったメガネをゆっくりと外しながら、信也が言った。
「おいおい。屋敷の風呂じゃ覗けないんだぜ? チャンスなんだぞ?」
俺たちが生活している屋敷の風呂を覗くには、直接脱衣所のドアから覗くか、わざわざ屋敷の壁を3階までよじ登り、窓の外から覗くしかない。
「分かった。じゃあ、偵察でもしてくるぜ」
「おい、馬鹿! 待てって!」
浴槽の中で立ち上がり、壁の方へと向かって歩いていくギュンター。俺も慌てて立ち上がり、ギュンターを止めるために後をついて行く。
こいつ、本当に女湯を覗くつもりなのかよ!?
「偵察って、もう覗くつもりか!?」
「ちょっと壁の向こう側を見てみるだけだって」
俺はギュンターの腕を掴んで止めようとするが、こいつはそのままニヤニヤと笑いながら壁の方へと向かっていく。こいつは汎用機関銃を2丁も持って同時にフルオート射撃をする事が出来るような筋力の持ち主だから、転生者の俺でも止めるのは難しい。多分、信也も一緒に止めてくれたとしてもこいつを連れ戻すのは難しいだろう。
ギュンターは壁の前まで来ると、上の方を見上げながら立ち止った。壁の高さは4mくらいだ。踏み台からジャンプすれば、ギュンターのジャンプ力ならば壁の淵に手が届くかもしれない。
「ええと、何か踏み台になりそうなやつはないかな?」
「ギュンターさん、止めようよ! 殺されちゃうよ!」
曇ったメガネをかけ直しながら俺たちの後を追ってきた信也。信也も踏み台を探し始めるギュンターの腕をつかんで引っ張り始めるが、ギュンターはびくともしなかった。
「信也は見たくないのか?」
「な、何を?」
「この壁の向こうでお湯に浸かっている美少女たちの姿を!」
「え、ええッ!?」
湯気の中で、信也の顔が真っ赤になった。
「でもギュンターさん! 覗きはダメですよ!」
「いいじゃねえか。俺はバスタオルに包まれたあの膨らみが見てみたいんだよ。―――仕方ねえ。ジャンプするか」
信也が顔を真っ赤にしてギュンターの腕から手を放してしまった隙に、ギュンターは壁の上を睨みつけながら屈伸を始めた。どうやら踏み台に使えそうなものは見つからなかったらしい。
おいおい、まさかここからジャンプするのか? でもそれじゃ気付かれるぞ?
俺はギュンターにそう言おうと思ったけど、彼に声をかけようとしたその時、ギュンターは屈伸運動を止めていきなり壁の上へと向かって思い切りジャンプした!
「あッ!」
「よせ、ギュンター!!」
ハーフエルフの身体能力は人間よりも高い。しかもギュンターは奴隷にされていた頃から体を鍛えていたらしいし、モリガンに入ってからも毎日筋トレをしていたから、あいつの身体能力は俺と互角だ。恐ろしいジャンプ力でジャンプしたギュンターの両手は、目の前に鎮座する白い壁の淵に届いてしまったらしい。
このままではギュンターが女湯を覗いてしまう! 俺も確かに覗いてみたいとは思うけど、バレたら絶対殺される! 特にエミリアにバレたら首を刎ね飛ばされちまうッ!
「や、やべえッ! 信也、あのバカを引きずり下ろすぞ!」
「う、うん! 僕も死にたくない!!」
温泉で休みに来た筈なのに、なんで戦いで窮地に陥っているような気分になってるんだろうか?
とりあえず、ギュンターの馬鹿を壁から引きずりおろさないといけない。俺の攻撃力のステータスは18790。攻撃力のステータスの中には筋力なども含まれているから、あいつを引きずりおろすことは可能だ。
「も、もう少しだ・・・・・・! もう少しで女湯がぁ・・・・・・!!」
「あああああああッ! やめろぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」
壁の上から女湯を覗くために、ギュンターが少しずつ両腕を曲げ始める。俺は思わず叫びながらジャンプすると、ゆっくりと壁の上に上がっていくギュンターの足にしがみついた。
俺がギュンターの足にしがみついたせいで、壁の上に上がり始めていたギュンターの両腕が再び伸び切る。そして俺の足を下にいる信也が掴み、俺とギュンターを引っ張り始めた。非力な信也だけではギュンターを引きずりおろすのは難しいため、俺も片足を壁に引っ掛け、ギュンターの馬鹿を下へと引っ張っていく。
「だ、旦那ぁぁぁぁぁぁぁッ! 何で邪魔するんだよッ!? あと少しで女湯が見えるんだぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!?」
「こっちは死にたくないんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」
「旦那は姉御の巨乳やフィオナちゃんの貧乳が見たくないのかッ!?」
「見てみたいけど見たら死ぬッ! 絶対殺されるッ!」
「ギュンターさん、女湯にはミラもいるんだよ!?」
ギュンターを止めるために下で叫ぶ信也。確かに、この壁の向こうにはギュンターの妹のミラもいるんだぞ。
そういえば、こいつは俺と腕立て伏せしてた時に彼女に応援されてかなり喜んでたよな? まさか、こいつはシスコンなのか?
もしシスコンなら、こう言えば止まるかもしれない。
「覗いたのがミラにバレたら嫌われるぞッ!」
「え・・・・・・?」
俺がギュンターに言った瞬間、壁の上を見ていたギュンターが両足にしがみつく俺を静かに見下ろした。
「み、ミラに嫌われる・・・・・・?」
「ああ。絶対嫌われるぞ。だから止めとけ、ギュンター」
「・・・・・・いや、俺は覗くぜッ!!」
「な、何だとぉッ!?」
馬鹿な!? 妹に嫌われるんだぞ!? シスコンならば絶対に覗こうとしない筈なのに、こいつは覗こうとしている!
「い、行かせるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
「おりゃあああああああああああああッ!!」
俺は片足を壁に引っ掛け、本気でギュンターの両足を引っ張った。下でも信也が思い切り俺の足を引っ張り、ギュンターを引きずりおろそうとしてくれている。
少しずつ壁から降り始めるギュンターの体。壁の淵を掴んでいたギュンターの左手が、俺たちに引っ張られたせいで壁の淵から外れてしまう。
よし、もう少しだ!
「負けるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
ギュンターが壁の淵から右手も離しそうになったその時だった。突然ギュンターは雄叫びを上げると、両足にしがみついている俺を振り落すために、両足を後ろに思い切り振り上げたんだ。
「うわぁっ!?」
「に、兄さん!!」
ギュンターの両足ごと後ろに振り上げられ、俺は彼の両足から手を放してしまった。俺は大浴場の天井まで吹っ飛ばされると、天井に背中を叩き付けられ、そのまま真下にあった浴槽のお湯の中に叩き落とされてしまう。
俺があいつから手を放してしまったということは、もう信也だけではギュンターを止めることは出来ない。
「ゲホッ! ゲホッ! だ、ダメだったか・・・・・・!」
浴槽の中で立ち上がった俺は、両手で顔のお湯を拭いながら壁を上っているギュンターを見上げた。あいつは再び壁の淵を左手で掴み、壁を上っているところだった。
今からしがみついてももう間に合わない。あいつは女湯を覗いてしまう。
「俺は見てやるぜ、旦那ッ!」
「あ・・・・・・・・・」
ついにギュンターは壁を登り切った。
でも、ギュンターが今目の当たりにしているのは、間違いなく浴槽に浸かっているエミリアたちの姿ではないだろう。
彼の目の前には、何故か見慣れたライフルの銃口があったんだ。間違いなくあのライフルは、モリガンで正式採用しているSaritch308。銃身が長い上にスコープとバイボットが装着されているから、あれはマークスマンライフルのSaritch308DMRだ。
そして、そのマークスマンライフルをギュンターに向けているのは――――バスタオルを体に巻いた、カレンだった。
ギュンターと同じように壁を上って待ち構えていたカレンが、バスタオルに包まれた大きな胸を壁の上に乗せた状態で、彼の頭にマークスマンライフルの銃口を突き付けていたんだ。
「か、カレン・・・・・・?」
「残念だったわね、ギュンター」
銃口を突き付けられたまま、ギュンターがぶるぶると震え始めた。
「安心しなさい。装填してあるのは模擬戦用のゴム弾だから」
「いや、なんで大浴場にマークスマンライフルを・・・・・・?」
「―――お仕置きよ」
ギュンターの頭に銃口を突き付けたままカレンは微笑むと、彼女はマークスマンライフルのトリガーを引いた。
その時、ギュンターがいきなり壁を掴んでいた両腕を離したんだ。彼女のゴム弾を回避するためにわざと壁からギュンターが下りたせいで、カレンが放ったゴム弾はもちろんギュンターには命中しなかった。そのまま湯煙の中を駆け抜け―――さっきギュンターに両足ごと振り上げられ、浴槽の中に叩き落とされた俺へと向かってきた。
「あっ、力也が―――」
「―――ぶっ!?」
「兄さぁぁぁぁぁぁぁぁぁんッ!!」
彼女の放ったゴム弾は、女湯を覗こうとしていたギュンターではなく、俺の左の頬に激突した。
俺は弟の絶叫を聞きながら、そのままお湯の中へと崩れ落ちて行った。
「ご、ごめんなさい力也! 大丈夫!?」
「大丈夫だって。気にすんなよ」
街の外に向かって歩きながら何度も謝るカレン。俺はフィオナが作ってくれたエリクサーを飲みながら彼女に「気にするな」と言いながら、仲間たちと一緒に街の外へと向かって歩いていた。
瓶の中に入っているピンク色の液体の味は、まるでオレンジジュースのような味だった。普通のエリクサーを飲んでみたことがあったんだけど、まるで抹茶の中に唐辛子とレモン汁を大量に混ぜたような凄い味で、なかなか飲めなかったんだよな。でも、このエリクサーならば簡単に飲む事が出来る。
彼女のエリクサーのおかげで、ゴム弾が頬に直撃した痛みはすっかり消えていた。
「だ、旦那・・・・・・。俺にもエリクサーをくれ・・・・・・」
「ほら」
(お兄ちゃんの馬鹿・・・・・・)
ギュンターの顔は痣だらけだった。カレンにマガジンの中のゴム弾を全部顔面に叩き込まれたんだろう。
街を囲んでいる白い防壁の南側へと向かい、俺たちは騎士たちが警備していた門を潜って外に出た。夕日で橙色に照らされた草原に足を踏み入れると、先頭を歩いていた信也がポケットから端末を取り出し、画面を何度かタッチし始めた。
信也は端末を使ってレオパルト2A6を装備すると、目の前に出現した迷彩模様の戦車の上に上り、上ろうとしているミラに手を貸して彼女を引き上げた。
(また私が操縦できるんだね! あははははっ!)
「はははっ。ミラ、お願いね」
(任せて、シン!)
一番最初に操縦士のミラが戦車に乗り込み、砲手のカレンと装填手のギュンターが乗り込む。3人が乗ったのを確認すると、信也は砲塔のハッチから車長の席に腰を下ろした。
俺もレオパルト2A6の砲塔の後ろに乗ると、エミリアに手を貸して彼女を引き上げた。
「じゃあ、出発するよ?」
「おう。頼む」
橙色に照らされた草原の中で、再びレオパルト2A6がキャタピラとエンジンの音を轟かせながら動き始める。俺は砲塔の後ろに腰を下ろすと、背中を砲塔に預けて橙色の空を見上げた。
『力也さん、大丈夫ですか?』
「ああ。俺は大丈夫だよ」
フィオナは大浴場でカレンにゴム弾で間違って撃たれた俺を心配してくれているらしい。俺は傍らに浮かんでいる彼女の頭を優しく撫でると、微笑みながら「フィオナのエリクサーのおかげだよ」と言った。
『えへへっ』
「なあ、力也」
「ん?」
俺に撫でられて嬉しそうに笑うフィオナの笑顔を見つめていると、隣に座っていたエミリアが両足を伸ばしながら俺を呼んだ。
「や、屋敷に到着するまで、膝枕しないか・・・・・・?」
「え?」
頭にかぶっていた軍帽を取りながら、エミリアは顔を赤くして俺を見つめている。
「い、いいのか?」
「お前なら・・・・・・か、構わん」
「じゃあ・・・・・・頼む」
俺はレオパルト2A6の砲塔から頭と背中を離すと、俺も顔を赤くしながらエミリアの太腿の上に頭を預けた。
俺の目の前には、顔を赤くしながら俺の顔を見つめているエミリアとフィオナがいる。
「・・・・・・・・・最高だ」
俺は呟くと、膝枕をしてくれているエミリアを見つめながら微笑んだ。




