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転生者が1日中レベル上げをするとこうなる


 力也がレベル上げに行くと言ってギュンターの仕事場から出て行ってから、そろそろ22時間が経過する。フィオナの治療のおかげでギュンターの凍傷はもう完全に回復し、仕事場の部屋の中で武器の点検と外の見張りをしている。


 私は力也を呼びに行くとカレンに言い、ショットガン付きのAEK-971を背負ってギュンターの仕事場から湿地帯へと向かって走っていた。昨日の夜からずっと外を見張っていたが、敵兵のリーダーが襲撃してくることはなかったため、見張りの最中には1発も発砲していない。昨日の戦闘で撃ち尽くしたマガジンも、いつの間にかポケットの中に補充されていた。


 湿気で湿った桟橋の上を駆け抜け、転がっている壊れかけの木箱の上を飛び越えた私は、町から湿地帯へと足を踏み入れる。力也がレベルを上げに行くと言って出かけて行った方向はこっちだった筈だ。


 そういえば、睡眠はどうしたのだろうか? まさか一睡もせずに魔物と戦っていたのか? 


「ん?」


 目の前の木の陰から血の臭いがする。よく見ると、木の幹の陰から苔とツタに覆われた巨体の肩の部分が見えた。あれはおそらく、この町にやってくる時に遭遇したゴーレムの亜種だ。


 私を奇襲するつもりなのか? それとも、既に力也が倒したのか? 私は背中のアサルトライフルを取り出すと、銃口を木の陰のゴーレムに向けながらゆっくりと前へ進んでいく。


 ラトーニウス王国やネイリンゲンノ周辺に生息しているゴーレムならばアサルトライフルの弾丸でも外殻を貫通する事が出来るが、この亜種の外殻を貫通することはできるだろうか? もし貫通できなかった場合は、弾薬を敵のリーダーとの戦いに温存するため、攻撃せずに逃げ切るつもりだった。


「これは・・・・・・・・・ッ!?」


 私が銃口を向けた木の陰のゴーレムは、もう死んでいるようだった。アンチマテリアルライフルの弾丸に右肩を抉り取られ、頭から胸のあたりまで刃で切り裂かれている。


 そのゴーレム以外にも、木の陰には無数の魔物の死体が転がっていた。手榴弾の爆発に巻き込まれて木端微塵に粉砕された狼の死体や、一刀両断されたハーピーの死体が転がり、木の幹や地面から突き出ている木の根が真っ赤になっていた。


 間違いなく、この魔物たちは力也が倒した魔物だろう。よく見ると、死体の他に弾丸の空の薬莢も転がっているのが見える。弾丸で魔物を倒したという事だろう。私たち以外に銃を使って魔物を倒すことがあり得る存在は、転生者しかいないのだ。


「あいつ、単独でこんなに魔物を・・・・・・?」


 私の周囲に転がっている魔物の数は、明らかに今まで依頼を受けて殲滅してきた魔物たちよりも数が多い。農場を襲撃していた魔物を殲滅した時や、アラクネの群れを全滅させた時よりも死体の数が多いのだ。


 力也は途中で持って行った銃の弾丸を使い果たしてしまったに違いない。風穴を開けられて絶命している魔物も多いが、その魔物よりも刃で両断されている魔物の死体の方が多いのだ。おそらく途中で装備していた銃がすべて弾切れしてしまい、刀による攻撃で戦闘を続行したのだろう。


 最初に湿地帯を訪れた時は魔物の鳴き声が聞こえていたのだが、今は全く聞こえなかった。まさか、力也がすべて殺し尽くしてしまったのか?


 その時、倒木の近くで死んでいるハーピーの頭に見慣れた形状の刀が突き刺さっているのが見えた。ライフルの銃床のようなグリップとキャリングハンドルを持つ、奇妙な形状の刀だ。


「り、力也の刀・・・・・・!」


 私はハーピーの頭に突き刺さったままになっている刀へと近づくと、血で濡れているグリップを握り、ハーピーの頭から刃を引き抜いた。グリップの脇に用意されているホルダーの弾丸はすべて空になっている。


 あの強烈な一撃のために、このホルダーに用意した12.7mm弾もすべて使い果たしてしまったらしい。


 力也は無事なんだろうか?


 彼の得物を持って倒木の向こう側を探そうとしたその時だった。倒木の近くで、真っ赤に汚れた何かが動いたのだ。


「・・・・・・!?」


 まさか、魔物がまだ生きていたのか!?


 私はハーピーの頭から引き抜いた力也の刀を構えると、静かに倒木の近くへと向かう。


 もし魔物ならば、この刀を振り下ろして止めを刺してやる!


 私は倒木の近くで動いた何かを睨みつけながら、ゆっくりと近付いていった。他の魔物たちの死体は全く動いていない。動いたのは、その何かだけだ。


「・・・・・・?」


 動いたように見えたその何かは、フードのようなものをかぶっているようだ。よく見ると、血で汚れていない部分の色は、狼の毛皮やハーピーの羽のような色ではなく、私が身に着けている制服と同じくモスグリーンとブラウンの迷彩模様に見える。


 まさか、力也か!?


「り、力也・・・・・・!?」


 構えていた刀を下ろし、私は魔物の死体と一緒に転がっているその何かへと駆け寄った。


 やっぱり、その何かはフードをかぶっていた。魔物の血で真っ赤に汚れ、千切れ飛んだ魔物の肉片がいくつも付着しているが、汚れていない部分の色は私と同じモスグリーンとブラウンの迷彩模様。出発の前日にフィオナが作ってくれたギルドの制服だ。


 そして、それを身に着けているのは―――やっぱり、力也だった。


「力也ぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 魔物の死体の中で倒れていた彼は、傷だらけだった。左肩は引き裂かれていて、腕や肩には内出血の痕が浮き上がっている。足や腕には、狼に噛みつかれた傷がいくつもあった。


「力也、しっかりしろ! 力也ッ!」


「え・・・・・・エミリア・・・・・・」


「力也・・・・・・!」


 口から血を流しながら、力也が静かに目を開ける。傷だらけの彼は涙目になっている私の顔を見上げながら微笑むと、痙攣している右腕を無理矢理動かし、ポケットの中から自分の端末を取り出した。


「レベル上げ・・・・・・頑張ったよ・・・・・・・・・」


「え・・・・・・?」


 彼の端末の画面には、力也のステータスが表示されていた。ステータスの数値が表示されている一番上には、彼のレベルも表示されている。


「レベル・・・・・・23!?」


「かなり上がったぜ・・・・・・はははっ」


「馬鹿者・・・・・・無茶し過ぎだ、馬鹿者ぉ・・・・・・!」


 私は血で真っ赤に汚れた苔の上に膝をつくと、倒れている力也を優しく抱きしめた。


 彼は、あのリーダーを倒すために必死にレベルを上げていたのだ。持って行った武器が弾切れになっても、端末で新しく生産せずに無数の魔物たちと戦い、殲滅したのだ。


 もし新しく武器を生産して使っていれば、こんなにボロボロにならなかっただろう。だが、彼は武器が弾切れになっても、刀とダガーだけで戦っていたのだ。


「すまん・・・・・・。でも、これならあいつを倒せるかもしれない・・・・・・」


「・・・・・・とにかく、みんなの所に戻ろう。フィオナの治療を受けるんだ」


「悪いな・・・・・・」


 力也が端末を操作し武器の装備を解除する。私は倒れていた彼を立たせると、涙を袖で拭ってから彼に肩を貸し、町へと向かって歩き出した。








「あり得ねえ・・・・・・。22時間も魔物と戦ってたのかよ・・・・・・」


 俺の目の前でマチェーテの刃を砥石で研ぎながらギュンターが言った。敵のリーダーの攻撃を受けて重傷だった筈なんだけど、フィオナの治療のおかげでレベル上げに行く前にあった凍傷は見当たらない。


 迷彩模様の制服に身を包みながらマチェーテを研ぐ彼に「でも、今のレベルは23だぜ」とニヤリと笑いながら言うと、俺は荷物の中から非常食の干し肉を取り出して齧り付いた。


 レベル上げのために湿地帯でずっと魔物と戦っていたから、何回か水分補給をしただけで食事も睡眠も取っていない。


「あれ? その羽根ってハーピーの?」


「ああ」


 レベル上げの戦利品だ。俺は仕留めたハーピーの真紅の羽根を迷彩模様のフードに飾ると、ギュンターの近くに置いてあった砥石を1つ借りて、返り血を拭き取ったばかりの93式対物刀の刀身を研ぎ始める。


 1日中魔物を倒し続けてレベルが11から一気に23に上がったのはいいんだけど、相手のレベルは45だ。まだレベルの差は22もある。


 でも、これ以上レベル上げしている時間もない。すぐにまた攻撃を仕掛けなければならなかった。


『それで力也さん、作戦はどうするんですか?』


「相手に銃弾は効かなかったのよ? 最後にあんたが撃ったロケット弾は効いたかもしれないけど・・・・・・・・・」


「大丈夫だ。作戦は考えてある」


「作戦?」


 あの転生者は確か、攻撃を繰り出す直前にポリアフって言っていた。さっき端末で確認してみたが、ポリアフと言うのは極めて強力な氷属性の能力だった。俺のナパーム・モルフォは炎を操る蝶たちを6匹まで召喚するんだけど、あいつのポリアフは氷を自由自在に操る精霊を召喚する事が出来る能力らしい。もちろん、召喚できる精霊は1体だけだ。


 ちなみに、ポリアフを生産するのに必要なポイントは9000ポイント。あいつのレベルは45だから、こんな能力はいくつも生産できるんだろう。今の俺の持ってるポイントは、レベル上げのおかげで30000ポイントもあるんだけど、俺の場合はギルドの仲間たちの分の装備も生産しなければならないから、迂闊にポイントを大量に使う能力を生産するわけにはいかない。


 おそらく、レベルが上がったから銃弾はある程度効くようになっている筈だ。もしまた通用しなかったとしても、俺が考えた作戦ならば勝利する事が出来るかもしれない。


 俺は刀を研ぐのをやめると、端末を取り出して5人分生産しておいた武器を1つずつ装備すると、それを取り外して次々に床の上に並べた。


『力也さん、これは何ですか? 大きいタンクがついてますけど・・・・・・?』


「これはM2火炎放射器っていうんだ。銃弾じゃなくて炎で敵を攻撃する武器なんだよ」


「ほう。確かにあいつは氷を使って攻撃してきたからな。有効だろう」


 それにしても、あくまで端末を持っているのは俺だから、仲間たちの武器を用意するには一旦俺が装備しなくちゃいけないんだよな。装備する画面では、俺がM2火炎放射器を5人分も装備してることになってるし。


「あいつの氷はヤバかったが、5人で一斉に火炎放射器で攻撃すれば問題ないな」


「それに、ナパーム・モルフォたちもいる」


 俺はナパーム・モルフォを1匹だけ召喚すると、そっと持ち上げた右手の人差指に止まらせた。


「ミラはどうするんだ?」


「さすがに彼女まで戦わせるわけにはいかないだろう」


 でも、彼女を1人だけここに置いていくわけにはいかない。連れていくしかないだろう。彼女1人で湿地帯を突破するのも無理だろう。


 俺は立ち上がると、床の上に並べたM2火炎放射器の燃料タンクを持ち上げて背中に背負った。火炎放射器の銃身も背中に下げると、俺はギュンターがマチェーテを研いでいるのを眺めていたミラを見つめながら言った。


「今から、またあの館を攻撃する。・・・・・・悪いけど、一緒に来てもらえるかな?」


「・・・・・・・・・」


 もちろん、彼女は戦わせない。


 ミラは俺の顔を見上げながら、首を縦に振った。


「はははっ。ありがとう、ミラ」


 彼女はあのオタクに喉を潰され、二度と声を出す事が出来なくなってしまった。今から俺たちは、彼女の喉を潰し、ギュンターの仲間たちを何人も殺してきたクソ野郎をぶっ殺しに行くんだ。


 仲間たちが立ち上がり、俺が用意した火炎放射器の燃料タンクを背負い始める。ギュンターもマチェーテを研ぐのを止めると、燃料タンクを持ち上げて「重いな・・・・・・」と呟きながら背負った。


「準備はいいな?」


「ああ」


『大丈夫です!』


「大丈夫よ」


「おう!」


「・・・・・・!」


 火炎放射器を装備した仲間たちが、俺を見つめながら頷く。


 1日中レベル上げをしたせいで、今の俺のレベルは23。まだあのオタクとはレベルの差が22もあるけど、今度はレベルを上げたし、作戦も考えてある。それに、今度は俺たちの攻撃も通用する筈だ。


 俺は仲間たちに向かって頷くと、仕事場のドアを開けた。



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