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番外編 黒いスズメと白いカラス

 これはルミとヴァルが【春を待つ街】に戻り、春を迎えた頃のお話。




 白や黄の小さな春の花が咲く木々に囲まれた建物の前。

 茶革鎧の軽装備を纏った精悍な黒髪の青年が、青と白のフリルで装飾されたシャツと、すんなりと伸びた足に短パンを穿いた、白い髪の美少女に見送られていた。


「ルミ! 行ってらっしゃーい!」

「おう。周りに迷惑掛けんじゃねえぞ」

「大丈夫だよ! むしろ困ったことがあったら僕に、」

「いや、やめろ。やめてくれ」


 二人はエスメラルダの口利きで、町外れの長屋に住んでいた。

 近所には青虎御殿と呼ばれるエスメラルダの派手で豪華な自宅がある。何かあった時にヴァルを預けることができるので助かるが、男としてはきちんと一稼ぎして、一軒家の「おうち」を手に入れたい。


 ルミは危険が伴うが報酬は高い【魔物狩り】という仕事に就いた。

 魔物といっても対象は食用に狩るような小物ではなく、ナマハギレベルの存在だ。

 暴食傾向があり、飢えを満たすために集落を襲うものが多い。しかもまれに異常繁殖することがある。

 適度に倒さないと人の住む領域が減ってしまうのだ。


 このやり方は王様も推奨している。

 麗しい笑みを浮かべ「そうだよね。適度に頭数をコントロールしないと」と頷くと、国民全員が悪寒を覚えたとかなんとか。


「おっとやばい」


 ルミは最後に、長屋の奥に掲げられている黒いクッションに向かって祈りを捧げる。


「ヴァルを大切にします。だからやつの暴走を止めてください。特に剥製は勘弁してください」

 

 特に最後の台詞には祈りを込めた。

 



「ごはんの元を待ってるよー!」

「……お前も野菜をちゃんと買って来いよ。前みたいにどぎつい色の野菜や噛み付く野菜には手を出すんじゃねえぞ」

「任せて!」

「本当かよ……」


 ぼやく「嫁」にぶんぶんと手を振って見送ったヴァル。

 やがて背中が見えなくなると、翻って家の中に飛び込んだ。

 小さな机の横に引っ掛けてあった、生成りのリュックを背負う。がちゃがちゃと中の筆記用具が音を立てた。扉を出るときちんと締めて、リュックにぶら下げた大きな錠を 

 ヴァルは「街小屋まちこや」へ行くのだ。




 この国の中でも【春を待つ街】は特殊な街だった。

 地図的には国境線にある。街中を流れる川は郊外の本流と合流しており、河川運搬によって運ばれてきた荷物を売買する郊外の取引所も持っていた。取り扱うものは多種多様で、数に制限を大陸で流通するものは

 当然人の出入りも多い。近隣の集落だけではなく、川向こうに隣接している二国からも商人たちがやってくる。老若男女色とりどり。

 いないのは孤高ぼっちの狼人くらいのものか。 

 

 街とその周辺を治める領主は、あらゆる人種が学べるよう、街の何か所かに基本の読み書き計算を教える「街小屋」を設置している。外からやってきた商人の子弟も学べるその小屋では、ヴァルのような新参者はすぐに受け入れられた。

 年齢は幅広い。集まる時間も仕事や親の都合もあるためバラバラだ。しかし子供の場合、それなりに年が近い同士で集まって遊ぶため、大切な「友達作り」の場所としても機能している。


 二階建ての小屋。

 上の倉庫になっている縦長の部屋の中は、長机と椅子、子供でいっぱいだ。


「ようヴァル!」

「ヴァル! ランド先生の宿題やってきた? 写させて!」


 山猫人の双子の兄妹リモとネルが駆け寄ってくる。

 ヴァルより少し年上で、長い青ズボンと縦じまの青シャツを着た二人。灰色の髪を耳の真ん中くらいで切り揃え、灰褐色の釣り目をランランと輝かせる彼らの顔はそっくりだ。 


 きっかけは初めて小屋に来た時。

 どちらが兄でどちらが妹かとイタズラを仕掛けてきた二人に、ヴァルは兄のリモを指して「姉妹じゃないの?」と言った。


『どうしてそう思うの?』

『だって、リモは綺麗な女の子だよ?』


 大きな目をまん丸くした二人に訊ねられそう答えたヴァル。

 ヴァルにとって体の性別なんて気にするところではない。その人の魂が求めている姿の方が大事だからだ(ただし、この世界ではその時の意思と魂が求めているものが必ずしも一致するとは限らない)


 面白いカラスの子がすっかり気に入った二人。

 今ではすっかり親友だ。




 リモが一生懸命に、宿題を蝋版で書き写していると、ネルがこっそりと耳打ちしてきた。

 

「ねえ聞いた? 今日来る新しい子。王様が【保護】してきた子なんだって」

「王様が?」

「そうそう、あの方って【変身人種アルター愛護】が趣味でしょう? 今回も珍しいから増やさなきゃって! ……余計なお世話だよね」

「一緒に遊んでくれるかな?」

「……あんたって本当に細かいところはどうでもいいよね。そんなところが好きだけど」




 わくわくしながら講師が来るのを待っていると、純人の白髭おじいちゃん先生がのんびりとやってきた。肩に黒い小鳥を乗せて。


 小さな幼鳥。

 まん丸いふわふわのフォルムは、子ガラス時のヴァルによく似ている。

 しかし目つきが若干きつい。警戒心にあふれた黒い瞳で周囲を睥睨している。

 

「あー、雀人のマシロだ。王様の命でこちらに引っ越してきた。みんな、いじめないようにな」


 仲良くしろ、ではなくいじめないように。

 茶色の羽を持たないまっ黒スズメ。

 しかも王様の命。


 多種多様な背景を持つ子供たちは、すぐに察した。

 ――――こいつは地雷さわるときけん持ちだ。

 踏んだらびりびりする地雷魚と同様に、触ったら危険な奴だ。

 被害者顔がきつくて、下手したら何かにつけ気に入らない人を加害者扱いする地雷魚を思い浮かぶ。

 緊張が高まる部屋。  




 まっ黒な小鳥は黙ったまま、周りを観察している。 

 そして興味津々で眺めてくる一人の真っ白な子に気が付くと、羽を逆立て威嚇した。


『お前が男女おとこおんなのヴァルコイネンか! 貴様は弱っちい癖に黒嵐の狼(シュバルツシュトルム)の相棒を自称しているんだってな! 女としてどっちつかずの上に、あの偉大な方をかくしたなんて見下すなんざ、俺が許さん! ぶっ倒してやる』  


 シーン。

 部屋中の視線が、一人の白い美少女ヴァルに集まる。



 

 ヴァルはきょとんと黒い瞳を丸くさせていたが……やがてポン、と手を打った。


「僕とお友達になりたいんだね! 嬉しいな。宜しくねー! で、シュバルツシュトルムさんって誰?」


 ――――そっちかよ!!!


 部屋中の子供から、心の突っ込みが入った。

 当然白い子ガラスには通用しないけれど。


 唖然と固まった黒いスズメを、老先生はそっと抱き上げて、ヴァルの隣の椅子に置いた。 

 わなわなと震えながら、人の形をとる黒スズメ。


 茶色のズボンと茶色の格子のシャツ。

 マシロは長い髪を一つに縛った、なかなか将来有望な顔をした男の子であった。

 が、ヴァルは全く外見に興味はない。

 マシロは授業中なんどもヴァルに喧嘩を挑み、軽く斜め上にかわされ続けた。先生も周囲も慣れたもの一切手も口も出さない。


 やがて涙目になったマシロ。

 しばらくヴァルを睨んでいたが、全く気にしない子ガラスに諦めて、しぶしぶ貸し出された蝋版に向かった。





 やがて日の高いうちに、午前の部は放課後となった。

 夕方の部にはもう少し大きな子供たちが集まる。


 ヴァルはエスメラルダのところに仕事に行く前に、リモとネルの両親がやっているお店に野菜を買いに行くことになっていた。

 三人で連れ立って店に行くはずが、後ろからマシロが人の姿で付いてくる。


「ねえ、マシロ。あんた家に帰んないの?」

「……」


 妹のネルが訊ねると、マシロはしかめ面をして答えない。

 

「何よ、もう! こっちがせっかく聞いているのに」

「ネル。ほら、マシロ君は色々あったんだろうからさ。新しい家に居づらいんだよ」

「何を決めつけてるんだよ!」

 

 マシロが「ぴー!」っと怒る。

 本人はあれこれ人に察されるのも、言いにくいことを訊ねられるのも嫌いのようだ。


 双子は顔を見合わせた。

 (こいつはやっぱり地雷鳥めんどうなやつだ)

 イライラする少年を気の毒そうに眺めて、マシロが睨んでいるヴァルを見る。

 

 ヴァルはニコニコと笑顔を道行く人に挨拶しながら、元気に歩いている。

 本人に自覚はないが、マシロの怒りを全く気にしない彼女は、「ここのお魚とても美味しんだよ! でも勝手にとっちゃいけないんだって。つまらないよね!」といつも通りだ。

 すっかり肩透かしの荒ぶる小鳥は、どうしたらよいか困っていた。



 

「あら、ヴァル。あんた何ぶらぶらしてんのよ」

「ゴン!」


 そこに現れたのは一人の赤い髪に少しきつめの目をした少女。

 作業着に木箱を抱えていた。


 ゴンは兄のヒョー・ジューとヴァルたちが来るより前に【春を待つ街】に引っ越してきていたのだ。

 今まで一族で自治をしてきた村は役人を派遣してもらい、実質村長のヒョー・ジューは免職になった。

 血族の殆どは土地に残ったが、二人は新しい生活を求めて、ここにやってきたのだ。

 現在ヒョー・ジューは役場で仕事を得、ゴンは「いつかは兄に守られて養われる価値のある女になりたいんだけどさ」と言いながら、河川の運輸に関わる商会で雇われている。


「野菜を買いに行くんだよ! 笑わないやつ!」

「……子どもは好きよね、あれ」

「ゴンは仕事でしょう?」

「そうよ。綺麗の基盤は何よりお金よ。化粧品って高いんだから」

「ゴンは綺麗だよ?」

「……あんたにとってはこの世界はみな美しいんでしょうね。あたしは平等とかじゃなくて、あくまで兄から一番美しいと思われたいの。あんたもせいぜい頑張りなさい。あの黒狼はそんなことしなくてもぞっこんみたいだけどねー。あー悪趣味」

 

 ふん、と乱れた赤い髪を整えて、ゴンは天然の美少女を見下ろす。

 そういえば、と訊ねてきた。


「東の国から来たっている緑狸がいるじゃない」

「うん、そば屋のおっさんのこと? ここにもお店作ったよね」

「私の母も東国出身なんだけど、狸人は神官の一族と聞いているわ。しかも緑色といえば吉兆の証だし。そんな安泰なはずの連中が、あえて【保護】されてこの国にいるわけ? 怪しいから近づくんじゃないわよ。しかもそばだし!」

「……おそば、美味しいよ?」

「麺といったらうどんでしょう!? そばのどこが美味しいのよ、貧民の穀物じゃない! 生成された小麦が取れない貧しい地域の食べ物をあんな値段で出して! ……許せないわ」

「狐人と狸人はこれだから……」

「はあ?」


 後ろで突っ込みを入れてしまったマシロに、ゴンが睨みつける。


「あんた……黒いけどその雰囲気、スズメ? たにんの事情に上から目線で文句付けんじゃないわよ」

「狐人と言えば、この国で粛清された鴉人みたいなやつらだろう? お前らと狸人の争いのせいでうちの国は大混乱だ」

「争いに火を注いだのは純人でしょう! あいつら変身人種が揉めるたびに漁夫の利を得ようとするんだから!」

「ねえ! それよりもさ!」

「「はあ?」」


 殺気だった二人がヴァルを振り向く。

 そこにはじゅるると、よだれを流す白い髪の美少女がいた。

 

「……うどんって、美味しいの?」


 




「ヴァル、これがうどんだよ」

「堅そうだね」

「ゆでて食べるものだよ」


 家についたリモが、お店の在庫からうどんの乾麺を出してきた。 

 ゴンがそれにお金を払うと、「ほら」とヴァルに突き出す。


「お金払うよ」

「いいわよ。うどんの素晴らしさを味わって、早くうどん党になりなさい。間違っても緑のタヌキの店にいってはダメよ」

「約束しないよ! だってそばも食べたいもの」

「相変わらずド正直ね! いいから、ちゃんと味わうのよ!」


 仕事の途中だったというゴンは去っていった。

 ネルがにこにこと嬉しそうなヴァルに訊ねる。 


「ヴァル。これ、ちゃんと茹で方分かる?」

「分かんない」

「……ねえマシロ。あんたこれ、食べたことあるよね。東出身だし」

「当たり前だろう」

「ヴァルのために茹でてやんなさいよ」

「はあ!? なんで俺が」


 訝し気なマシロに、ネルが真剣な顔で忠告する。


「嫉妬鳥君、どうせ今日は付きまとう気満々なんでしょ。ついでに家までついていけば? 言っておくけど……ヴァルは素敵な子だけど、隙だらけな上に好奇心半端ないからね。ケガしないようにね」


 ケガ?

 首をかしげるマシロ。

 そこにヴァルが「マシロがごはん作ってくれるの? ありがとう! 一品増えたってルミも喜ぶよ!」と憧れの黒狼の名前を挙げたものだから、そのまま忠告は忘れてしまった。


 




 果たして忠告は、隣の野菜売りの店に着いた時に実現した。

 ヴァルが店先に並ぶ危険植物に手を出そうとするのだ。


「わあ! 噛みつき野菜だって! 面白い!」

「やめろ! そいつは肉食だ! 首だけ切られても死んだふりをしているだけだ!」

「笑ってないけど怒っている野菜があった! 面白い!」

「やめとけ! それはつつくと爆発するぞ!」

「おじさん、これ欲しい!」


 ぴいぴいぴいぴいぴいぴいぴい!

 二人の小鳥が言い合う様子を、周りの大人は微笑ましく見守っていた。


「そもそも買う予定だったものは何なんだよ!」

「ヴァルちゃん。はい、いつものやつね。用意しておいたよ」

「ありがとうおじさん!」

「俺の心配は一体!?」




 夕焼けが眩しくなる帰り道。

 振り回されるだけ振り回されてたマシロは、よれよれになりながらヴァルとともに長屋に着いた

 ヴァルが鍵を開けようとするとすでに空いている。

 ぱあっと頬に赤みがさした。


 中には大好きなルミがいた。

 割烹着をつけて、分け前でもらってきた肉をさばいているところだった。

 思わず荷物を床に下ろして、ルミのしまった腰に抱き着くヴァル。

 

「ルミー!」

「おお、帰ったな。ちゃんとまともな野菜を買ってきたか?」

「おじさんが用意してくれてた!」

「……まあそうだろうな。ところでそこの坊主はだれだ?」

「マシロだよ! 今日友達になったの!」


 ルミを見てカチンコチンに固まったマシロ。

 大丈夫かと声を掛けそうになったところで、少年は口を開いた。


「あ、あのぼく黒嵐の狼(シュバルツシュトルム)さんのファンです! いつか魔獣狩りになりたくて、この界隈で新星として称えられている【黒化】の英雄に会いたかったんです!」

「【黒化】……ああ、東の国の表現か。そのあだ名は恥ずかしいからやめてくれ。ルミでいい」

「はい、ルミさん! そしてぜひ僕の羽毛を見てください!」


 そして黒い小鳥の姿になった。

 ふん、と胸を張って黒いふわふわの羽毛をルミに見せつける。


「確かに俺はたまたま黒く生まれついちまったからな。するとお前は……うーん。シマエナガの黒……いいや、邪念はなさそうだから雀人か」

『はい! 僕は平和で善良な一般鳥のスズメです! でも、黒に生まれたからには、せめて……もっと、格好良い男になりたいんです! ルミさんみたいに!』

「別に俺を目指さんでも……まあ、黒に意味を見出したいのなら俺は止めないがな。魔獣狩猟組合に入れる年になったら指導してやる。ちゃんとめし食って大きくなれよ」 

『はい!』

「ねえルミ。ごはんはなあに?」


 感動の場面にあっさり水を差したヴァルに「ぴぃ!」とマシロは怒るが、ヴァルの目線はかまどの上で煮立っている野菜スープにくぎ付けだ。




 ルミは野菜とうどんを受け取ると、マシロにうどんの茹で方を訊ねてきた。

 マシロは嬉々として手伝うが、ルミの腰にべったり張り付いたままのヴァルが気に障る。


「……なんで手伝わないんだよ」

「手伝ってたらルミに勘弁してくれって断られたんだ。だからごはんが皿の上にのったら運ぶのが僕の仕事!」

「はー。白いカラスは役に立たないのな。黒いスズメは役に立つけどな! ……せめてあっちで座ってろよ」

「もう一個仕事があるんだよ! はい、ルミ!」


 ヴァルはあーんと口を開く。

 ルミはゆであがった野菜を一つ摘まみ、息を吹きかけ冷ましてヴァルの口に放り込む。

 もぎゅもぎゅと満面の笑みで食べるヴァル。

 その様子を幸せそうに見つめるルミ。


「美味しい!」

「よし、じゃあこの辺でいいな」

「ルミ、あれも味見してあげる!」

「あれはただの果物だぞ」

「あーん、あーん!」

「はいよ」


 マシロはドン引いた。

 なんだこれ。

 俺、場違いじゃねえ?

 いちゃいちゃし始める二人に、うどんを茹でる箸(その場で作った)が度々止まる。


 砂糖百杯の胸やけを味わった頃には、うどんも茹で上がり、水を切って清潔な籠を用意する。一人前に丸めて並べていく途中で、思わず籠を落としそうになった。

 



 ヴァルがルミの後ろから服に手を侵入させたのだ。

 慣れたルミが軽く脇を締めて、不埒な両手を動けなくする。


「ルミ、手が動かないよ」

「未成年が成年に手を出してはダメだと言っただろう? 逆もしかりだが」

「エスメラルダお姉さんが言っていたんだ。夫なら妻の割烹着の中に手を突っ込んで胸を揉めって! それが夫婦円満の秘訣だって!」

「あんにゃろう……いいか、ヴァル。俺はお前と本当の夫婦になるつもりだが、今は言葉だけだ。大人にならにゃあ分からんことがある。結婚式まで待て」

「はーい……」

「その目は納得していないだろう……」


 マシロは三歩、後ろに下がった。

 ……だんだん耐えられなくなってきた。


 憧れの黒狼がいちゃいちゃと、子供から性的悪戯を受けながら幸せにおさんどんしている。

 黒いスズメとして祖国で受けた恥辱を、強くなることで見返そうとしているマシロにとって、あまりに強烈すぎる光景だった。

 

(……それもこれもこの白鴉のせいか)

 国でも有名な絵姿モデルの美少女であろうが、数々の古典を解読していく天才少女だろうが、善良で一般鳥であるスズメの自分には関係ない。


 一つ分かるとしたら―――――こいつは敵だ!




 マシロは、ルミの腰にくっついたままのヴァルにライバル宣言をした。


「お前にだけは負けないからな!」

「ん? いっぱい遊んでくれるってこと? うん、僕楽しみ!」

「どういう頭の構造しているんだよ! 俺はお前よりルミさんに相応しい相棒になってだな!」

「僕はルミの立派な夫になるよ! 同じだね!」

「だあー!!!」

「諦めろ。こいつはこういうやつだ」


 二人をさっさと椅子に座らせ、うどんをすするルミ。

 ぴいぴいぴいぴいと賑やかな食卓は、その晩の楽しく過ぎていった。






 数年後。

 天才学者・白鴉と、脅威の魔獣狩り新星ルーキー・黒雀が【春を待つ街】で名を挙げることになるが、今は未来の夢を語り合う(?)二人の小鳥。

 幸せはいつだってヴァルの周りにあふれていた。 

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