108.兄の恩恵
「ジルベールさん。この花って…。」
言葉が続かない。
あまりにも朝顔に似ている。こんな偶然ってあるんだろうか?
「朝顔と言うそうだよ。朝にだけ咲く花だと。メルバがそう言っていた。異界の花だと。」
メルバさんが?異界の花って…。
じゃあ、元ネタはあー兄ちゃんか。名前まで一緒だし。
(あー兄ちゃん。かき氷だけでなく、朝顔まで…。夏休みかい。)
納得すると同時に内心でため息をつく。
話を聞けば聞くほど、あー兄ちゃんは日本の文化を持ち込んでいる。
そのおかげですこぶる快適だけど、エルフのイメージはがた落ちだ。
エルフの里を見たいような。怖いような。軒先に風鈴とかあったらどうしよ。
「…そうなんですか。驚きました。これは私の故郷にもあった花なんです。メルバさんは私の兄と友達だったので、恐らく、兄が教えたのだと思います。」
「ほお。そうかい。じゃあ。メルバの言う『異世界の友』とはハルカの兄かい。」
「はい。仲の良い友達だったと聞いてます。」
「そうかい。そうかい。それなら、あの子の張り切りようもわかるね。私に『宣誓』をしてくれと頼みに来たんだよ。」
メルバさんが…。ここにも命の恩人がいた。
ありがたいなあ。普通異世界に飛ばされたらもっと苦労するはずなのに。
(…これもあー兄ちゃんのおかげか。ありがとう。兄ちゃんのおかげで妹は無事に暮らしていけそうです。)
心の中で何度目かわからない感謝を兄に捧げつつ、お茶をもう一口。
うん。美味しい。このお茶、お土産にしようかな?
「ああ。そうだ。この花は持っておいき。『時止め』の加工をしてあるから、しぼむことはない。
今朝、たまたま咲いたんだが、話を聞く限り、ハルカのために咲いたようだ。だから、この花はハルカが持っているといい。」
ジルベールさんが持っていた朝顔を私に差し出す。
私のために?そんなまさかと言いたいけど、ファンタジーな世界なら有りなのかも。
「私の花、ですか。…あの、これって加工してあるんですよね?お代って…。」
受け取ってみると、花の表面は何かでコーティングされているようだった。
柔らかいし、見た目も花の質感を損なってないので、固めた訳ではないようだ。
わざわざ加工してくれたなら、お金かかってるよね?
持って行けと言われたけど、ここは素直に聞いておこう。
「フォッフォッ。お代はいらないよ。初めての客にはサービスすることにしている。
…だからとは言わないが、いつでも来ておくれ。お茶を用意して待ってるよ。」
いいのかな?
アニスさんとシードさんを見ると、ふたりとも頷いてくれている。
そっか。これはジルベールさんの気持ちでもあるんだ。
だったら、今度こそありがたくいただこう。
「…ありがとうございます。また寄らせてもらいます。」
今度はお菓子を作って持っていこう。
ドラゴンってどんなお菓子が好きなんだろう。メルバさんに聞いてみようか。
そこまで連想して、ハッとなる。
そうだ。メルバさんにお土産っ。
「そうだ。ジルベールさん。このお茶ってなんていう名前なんですか?」
「ビビ茶と言う。これは、ビビの花の茎を乾燥させたものさ。茎が一番香りが良い。
今年出たばかりだから、土産に良いだろう。…メルバの顔が見てみたいね。フォッフォッ。」
すでにバレてる…。でもいいこと聞いた。
お土産にいいのか。よし。なら、これをメルバさんへのお土産に決定。
「そうなんですか。この辺でも買えますか?」
「もちろん。ここの向かいの並びに茶店がある。これはそこで買ったものさ。気に入ったかい?」
「はいっ。私、お茶が好きなんです。メルバさんにも、いつも美味しいお茶をいただいてて。だから、このお茶をお土産にしたいなって思ったんです。」
お菓子を作った日から、一緒におやつの時間にお茶をするようになったんだよね。
出てくるのはほうじ茶にそば茶に麦茶なんだけど、どれもとても美味しかった。
「そうか。そうか。メルバも喜ぶだろう。深緑の森の一族は茶を好む。」
そうなんだ。じゃあ、このお土産って良いチョイスなんだな。
よし。この後の行き先が決まった。茶店だ。




