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Witch World  作者: 南野海風
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92.貴椿千歳、ヴァルプルギスの夜を待つ






 色々と疑問はあるものの。

 この人なら確実にわかるだろうと当たりをつけて、手紙を見せた。


「そうか。招待状が届いたのか」


 風紀副委員長・華見月かみつき先輩は、手紙の内容をチェックすると、すぐに俺に返した。


 ――昼休み、俺は久しぶりに校舎の屋上にある風紀委員室へとやってきた。

 最近は風紀関係の揉め事がまったくなかったので、ここに来ることも全然なかったのだが。


 前に来てからそう日は経っていないはずなのに、長く来ていない気がする。


 風紀委員室を覗けば、真面目な御鏡先輩と華見月先輩の二人が、何事かを話し合っていた。


「相談があるんですが」


 そう言うと、華見月先輩は「わかった」と快く応じてくれた。


 聞けば風紀委員長代理である七重先輩は、生徒会に呼ばれて今日は向こうに行っているそうだ。

 今は特に仕事もないので、他の風紀委員は待機……それぞれの昼休みを謳歌しているらしい。


 御鏡先輩なら別に聞かれても構わなかったが、本人が遠慮して、華見月先輩を貸してくれた。

 やっぱり御鏡先輩は大人だな。

 うちのクラスメイトなら興味本位で首を突っ込んできそうなものだが。


 プレハブから出たところで、屋上の風に吹かれながら、話をすることになった。

 一応結界で日差しや気温は和らげられているが、さすがにそれでも夏の太陽の下は、少し暑かった。


「日々ひびのめいは知っているか?」

「いえ、まったく」


 簡素な手紙の内容の、最後にある名前。

 これがある以上、きっと冗談ではないのだろうと思う。


 だからこそ、俺はこの人に会いに来た。

 ヴァルプルギスは、高レベルの魔女集団だ。

 そして、この学校で俺が知る一番レベルの高い魔女は、この人だ。

 ――火周ひまわりめぐるは除いて。

 あいつとは学校ではできるだけ関わらないよう話がついている。


 魔力の可視化ができる以上、この人はレベル7以上の魔女である。

 案外ヴァルプルギスの一員である可能性も否めないし、仮に違うとしても勧誘はあったんじゃなかろうか。


「――出入り自体は認められているが、強いて一員というわけでもないな」


 一応確かめてみると、そんな感じらしい。


「日々野冥は生徒会の一員。2年生で生徒会長のお気に入りだ。つまりその招待状は、生徒会長からだと解釈してもいいだろう」

「え? そうなんですか?」

「生徒会長もヴァルプルギスの一員だからな。生徒会長に内緒で日々野が動くわけがない」


 ふうん……


「なんでこの手紙、生徒会長名義じゃないんですかね?」


 返された封筒を弄びつつ問うと、華見月先輩は腕を組んだ。


「点数稼ぎ……と言えば聞こえは悪いか。実績と経験を積ませているんだろう」

「実績と経験?」

「ヴァルプルギスは高校生までだからな。生徒会長が卒業した後のことを考えて、今のうちに必要な仕事をさせているんだと思うが」


 あ、そうか。三年生が卒業した後のことを考えて、か。

 立場がある人は大変そうだなぁ。


「それで、ヴァルプルギスの夜って、なんですか?」

「ヨーロッパ地方で五月一日に行われる祭りの前夜のことだ。暖気と寒気の境目で、また生者と死者がもっとも近付く日とも言われている。本来の意味は、な」


 あ、実際あるのか。そういうのが。


「こっちの意味では、茶話会のようなものだな。時々集まってお茶でも飲んで近況報告をして……まあそれくらいか」


 なんだ、ただの集会か。

 ……でも高レベル魔女の集会なんて、あんまり行きたくないな……魔女じゃない俺にはきっと場違いだ。





「で、なんで俺を招待なんて?」

「そこまではわからないが――」


 華見月先輩が珍しく笑った。


「ヴァルプルギスが動くのなら、その理由はおまえがヴァルプルギスに関わるからだ。――火周関係ではないか?」


 おっと。予想外の名前が出たな。


「知ってたんですか?」


 火周との一件は内々で処理したつもりだったのだが。どこから話が漏れたのだろう。

 まあそれでも、火周と関わった翌日には、委員長も知っていたくらいだしな……本当に噂なんてどこからでも漏れてしまうものなんだろう。


「詳しくは知らないが、揉めたことくらいはな。おまえが訴えるなら風紀委員わたしたちがあいつに罰を下してもいいぞ」

「それはいいです。話し合いで解決してますから」


 あの人は問題児のフリをして、弟である北乃宮を守っている。

 華見月先輩がどこまで火周のことを知っているのかはわからないが、さらっと話せる内容でもないので、言うべきではないだろう。口止めもされているし。


「それで……そのヴァルプルギスの夜って、いつですか?」

「いつだろうな。さっきも言った通り、時々行われている。要するに不定期ということだ」


 え?


「じゃあ、これは?」


 いつ行われるかわからない集会の招待状を貰ったって、正直困る。冗談でもなさそうだし、でもいつやるか不明だなんて。これどうしたらいいんだ。


「察しが悪いな。近い内に迎えが行くということだ」


 ……あ、そうですか。


「ちなみに聞きたいんですが、もし断ったら……?」


 高レベル魔女の集会に魔女でさえない俺が顔を出すなんて、場違いすぎる。それくらいはわかるので、気が進まないのだ。

 穏便に済むなら、断りたい。

 ……たぶん穏便には済まされない気はするが。


「招待状が届くということは、ヴァルプルギスの誰かが公式におまえに用事があるからだ。今回なら日々野か生徒会長だな。もし断ったら部屋まで押しかけると思うぞ」


 ああ、嫌だな。

 それは絶対に嫌だな。

 そういうのって前例ができるだけで慣例化することもあるんだよな。

 火周だけでもアレなのに、これ以上ヴァルプルギスの誰かが寮にやってくるなんて考えたくもない。


「……先輩、すごく不安なんですが」

「日々野の招待なら大丈夫だ。そもそもヴァルプルギスは……おい、なんだ」


 ずいっと迫る俺に、華見月先輩は不審げに眉を寄せた。


「不安なんです」

「……なぜ近付く?」


 ずずいっと寄ると華見月先輩は一歩引く。


「先輩」

「あっ……」


 伸ばした手が先輩のブレザーの裾を掴む。





「ヴァルプルギスの夜、空いてますか?」


 単独で招待されたら、それこそ何が起こるかわからない。

 いや、何が起こっても助からない。

 招待の意図がわからない以上、自衛手段を用意しておいて何が悪い。


「ぜひエスコートを頼みたいんですが」


 こうなれば、俺が知る中でもっとも高レベルで、かつどちらかと言えば味方であるこの人に、相談ついでに最後まで付き合ってもらいたい。


「いいと言うまで離しませんからね」


 というか、付き合ってもらう! 絶対に!

  




 なんか「招待されてない」とか「一人でも大丈夫だから」とかぐずぐず言っていたものの。

 どんどん迫ると、最終的には顔を真っ赤にして「わかったからもう近づくな」と、了承の意を示した。


 とりあえず、これで少しは安心だ。

 あとは、近く開かれるヴァルプルギスの夜を、待つばかりである。











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