表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Witch World  作者: 南野海風
74/170

73.貴椿千歳、試験を受ける 3




 印を結ぶ。

 有名なのは「九字」で、「臨兵闘者皆陣列在前」の文字を使った護身の方だろう。もとは道家から、のちに陰陽道に伝えられたという。

 現代に伝わる『魔除けの印』も、発祥というか、原点はこれに近い。


 「九字」を簡略化し、よりスピーディーに発動させることができるように。

 そして「魔法」という概念に、より強く影響を与えるように改善されたもの、になる……らしい。


 自分で使っておいてなんだが、今でこそ子供でも扱える『魔除け』は、詳しいルーツを知る者はほぼいない。

 元が、裏舞台で活躍し、人々の日常を守ってきた陰陽師の技術だからだ。

 魔女が現れるよりずっと前から、超常の力は存在していたのだ。


 魔女台頭は、言わば時代の波である。

 それに対し、ひっそりと伝わってきた現代の陰陽師だけでは、とにかく人数が足りなかったのだ。どうしても対応しきれなくなったのだ。

 それはそうだろう、もはや魔女は世界規模で存在する。


 どんな流れでそうなったのかはわからないが、魔女台頭に危機感を抱いた陰陽師からその神聖なる技術の提供があり。

 それを「大した修行を積む必要もなく、そこら辺の一般人でも使用できる簡単な『魔除けの儀式』」として洗練したのが、俺たちが今使っている『魔除け』である。


「――『硬・浄・断』」


 三文字。

 元来「字」には力が備わっている……と言われているが、現代では使用者のイメージを固めるために読み上げるものだと教わる。


 非常に『硬』く、不浄の力を『浄』化し、流れを『断』つ。


 そんな単純でシンプルだが、わかりやすい分だけ雑事が入り込まない概念を与えた、強力なシールドを展開する。


 展開した瞬間、紫先生が呼び出した、己が狩った鮫の頭骨を被った異形の巨漢・異界魔漁師『海人かいじんガヴィル』が振るう三股の銛が、シールドを直撃した。





「――よろしい。レベル6も危なげなくクリアしましたね」


 不足なく攻撃をガードして見せて、異界の魔漁師は消え失せた。


 ちなみに今のは「召喚魔法」ではなく、「簡易召喚魔法」。

 普通の召喚魔法は現世で適応する肉体を構成するので、直接的な接触は『魔除け』で対応できない。

 簡易召喚魔法は、魔力によって肉体に一瞬だけ物理効果を持たせるもので、正確に言うと召喚魔法とも言い難いものである。

 魔力の消費量や、個人個人が持つ才能と才覚で使い分けられている。


 まあ、ともかく。

 これで一応、レベル4からレベル6までの試験をこなしたことになる。


 もう少し余裕があるかな。

 たぶんレベル7くらいまでは、なんとかなるだろう。


「しかし生憎ですが、私は試験に使えるレベル7の魔法は持っていないので、シールドの効果についてはここまでです」


 そう言えば、先生はぎりぎりでレベル7なんだよな。

 高レベル魔女は、魔力が強い分だけ勢い押しが強くなり、魔法が雑になる傾向があるのだが、先生はすごく丁寧だ。

 さすがは九王院の教師、と言うべきだろうか。


「私の見立てでは、全力を出せばレベル8まではなんとかなりそうですね」

「そうですか?」


 よくわからないが。

 しかしどっちにしろ、あれだ。


「どれだけ『魔除け』が強くても、技術がないとレベル1なんですよね?」

「そうですね。そもそも『強力なシールド』は高レベルの応用技術で学ぶので、貴椿くんのように基礎の練度を上げる……という道を選ぶ者は少ないですね」


 あ、なるほど。

 強いだけの盾だの中和領域だのは、高レベル版の『魔除け』で展開できるのか。


「ただ、こうして見ると利点は多いのですね。やはり実戦型は違う」


 そんなに違うのか……

 先生の言葉や、驚いたまま固まっている総合騎士道部の部員たちの様子を見ると、俺はかなり常道とは離れているんだろうな、というのは薄々ながらわかってきたが。


「レベル1は簡単ですから。だから出すのが簡単で早い。あとはこの条件で効果が高ければ、言うことないですから」


 簡単。

 だからこそ、素早い展開が可能なのだ。


 俺から言わせれば、魔女を相手にするなら、展開に1秒以上掛かる『魔除け』なんてほとんど役に立たない。

 そんな大業に、そして時間を掛けてシールドを貼ろうとしていたら、魔女だって迂回道を探すだろう。シールドごと正面突破なんてまず考えない。


 もちろん、脆いシールドも効果が薄い中和領域も、論外だ。

 ある程度の効果があって、1秒を切るくらい早く展開できる『魔除け』は、必須だった。


 ……まあ現代日本において、魔女と戦う機会なんて早々なさそうだが。


「簡単なのは、基礎と言われる所以ですね。――さて」


 さて?


「試験はこれで終わりです。あなた『魔除け』はレベル7相当の性質クオリティーを持っています。あとは技術さえ伴えば、現高校生ではトップクラスの騎士として世間に認められるでしょう」


 ト、トップクラス!? 俺が!?


 ……はは、まさか。

 都会の連中は普段は遊んでるのに勉強もスポーツもできる完璧超人がたくさんいるって聞いてるぞ。

 金持ちで顔もよくて性格は悪いけどヒロインには優しい御曹司がたくさんいるって聞いてるぞ。

 生まれついての圧倒的勝ち組がたくさんいるって聞いてるぞ! 都会め!


「それで、これからどうするのですか? 未だ入部の意思は固めていないと聞いていますが」


 あ、そうだ。

 そうなんだよな、まだ決めてないんだよな。


「しばらく通ってみますか?」

「え?」

「貴椿くんほど使えるなら、下手な技術は必要ないと私は判断します。しかしそれでも更なる技術を欲するのであれば、総合騎士道部がお手伝いできます。

 試しに通ってみて、それから決めるというのも悪くないと思いますが」


 へえ。


「それでもいいんですか?」


 この集団は、男子が多い。それだけでも俺には嬉しい環境である。

 それに、北乃宮や風間、三動王、それに綾辺先輩と、知った顔もいるので安心だ。


「構いませんよ。実は、」


 メガネをクイッと上げながら、切れ長の瞳が部員たちに向く。


「――実は、部員の半分以上は、仮入部ですから」


 ……え?

 半分は、正式の部員じゃないの?


 え? どういうこと?





 まあとにかく。

 こうして俺は、しばらく総合騎士道部に通うことにした。











評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ