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Witch World  作者: 南野海風
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70.貴椿千歳、合流する





 ――かけがえのない男子仲間である北乃宮匠と、同じく総合騎士道部に所属している無口で内気な風間一は、先に行って準備をしている。

 「急いで来るな。ゆっくり来い」と言われ置いていかれた俺は、放課後になっても特にすることもないまま、教室に残ってぼんやり雨空を眺めていた。


 あまり時間が経っていないが、三動王がせっかく声をかけてくれたのだ。もう行ってもいいだろう。準備が済んでないなら現地で待ってもいいし。


 何せ、俺の認定試験の準備だし。至れり尽せりで恐縮すぎるし。


「お待たせ」


 悶絶する橘に挨拶し、鞄を持って教室を出た。


「こっちだ。今日は部室じゃない」


 廊下で待っていた三動王が、先を歩く。

 漆黒のポニーテールが目の前でかすかに揺れている。


 ……足運びが綺麗だな。一見して隙がない。

 剣術道場の生まれ、とか言ってたよな。これは相当強いぞ。


「なあ三動王、試験ってどんな感じなんだ?」


 認定試験と言われても、それを受けたことがない俺は全く知らない。何をさせられるかさっぱりである。

 できれば簡単に何をするかだけ知りたいな、と思って聞いてみる。

 三動王は振り返らずに答えた。


「あくまでも暫定だ。正式な資格は下りないから気楽に挑め」


 かっこいいな……!

 愛想が良すぎて逆に引く女子ばかり見てきた俺には、その振り返りもしない堂々とした背中が眩しく見える。


「やることは前と同じ。それに加えて実技が入る」

「実技?」

「実際に魔法を払う」


 ああ、なるほど。質を確かめるんだな。


「……ところで貴椿。弁当……」

「弁当?」


 三動王は前を向いたまま、ずいっと見覚えのあるそれを俺に差し出す。

 間に合わせの青い水玉模様の布に包んだ、中身はきっと弁当箱。


 俺が今朝、乱刃に渡したものだ。


「……え? なんで三動王が?」


 受け取ったものの、疑問しかない。

 なんで三動王が持っているのか?

 中身がないけど、もしかして三動王が食ったのか?

 どういう経緯でそうなった?

 乱刃は?

 元の持ち主の、乱刃の昼飯は?


 口を開けばそんな質問ばかりしそうだが、「疑問などない。だから話すこともない」と言わんばかりに断固として振り返らない三動王を見ていると、なんだか聞くのも筋違いな気がしてきた。

 もしかしたら、何らかの魔女の慣例だか常識だか、俺の知らない都会の常識に抵触したりするのだろうか……?

 帰ったら乱刃に直接聞こう。


 ――なお、この時三動王が一言「弁当おいしかった」と言いたいのに言えなかったことなど、俺が知ることは一生ない。





 一階にある「第三魔法実験室」の前には、先日顔を合わせた総合騎士道部の面々と、北乃宮と風間がいた。


 壮観である。

 何せこの集団、男子が多いのだ!

 しかも部長が男なのだ! 


 魔法が使えず圧倒的少数でケダモノのような女子が多い九王院において、立場が弱い生き物である男子がリーダーを勤めているのである。

 転校して一ヶ月を過ぎ、色々と経験した俺としては、その事実だけで感動できる。涙さえ流せる。


 男だって強く生きられる――そんな気高い勇気を貰った気がするのだ。


「こんにちは。面倒をかけてすみません」


 そんな部長・新名にいな龍臣たつおみに挨拶すると、


「気にすんな。別におまえだけのためじゃねえ」


 男らしいぶっきらぼうな答え。なんとも男リーダーっぽい! 三年生の貫禄!


「いろんなところから要請が来てんだよ。えーと、風紀と生徒会とおまえんところの担任と、総合騎士道部うちの顧問と。あと他にもあったけど、貴椿がわかるのはこの辺だな」


 へえ。そうなのか。

 まあ周囲も気にしてるんだろうが、俺自身も気になるし、こういう機会をわざわざ用意してくれたんだ。この期に及んで遠慮するのもアレだし。

 今後のためにも、自分のできることくらいは知っておいた方がいいだろう。


 ただ、一言言っておくべきだろう。


「実はまだ入るかどうか決めてなくて……」

「それも気にすんな。総合騎士道部うちを袖にしてよそに行く奴なんて少なくないからよ」


 気楽にやりゃいいんだよ、と部長は笑いながらバシバシ俺の背中を叩いた。


 ちなみにこの新名部長、風紀委員の準会員で掛け持ちしている。

 そして実は、先日乱刃が魔女三人と決闘したあの時、御鏡先輩が連れてきた男子が、この人だったのだ。……俺はそれどころじゃなかったので、憶えていなかったが。


「――間に合ったか」


 お?

 廊下の先から走り込んできたのは、聖域でちょくちょく顔を合わせている綾辺影虎先輩と。


「ちょっと待ちなさいよ!」


 先輩の追っかけ……というかなんというかで、これまたちょくちょく顔を合わせている二年生の哀川あいかわかすみ先輩。この人のことは、この前部に顔を出した時、ようやく名前を知った。


 ――見ての通り、哀川先輩は綾辺先輩が好きみたいだ。……田舎者の俺にも一発でわかる、非常にわかりやすい人である。


「じゃあ早速始めるか」


 と、部長は準備の済んでいる第三魔法実験室のドアを開けた。










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