表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Witch World  作者: 南野海風
40/170

39.貴椿千歳、帰宅する




「それで――」


 委員長・花雅里が、『瞬間移動テレポート』で下に降りてきた。


「この状況、あなたはどう収拾をつけるつもりですか?」


 流れで考えると、クラスメイトが誘拐されたから追いかけてきた、という形である。

 すっかり囲まれている蒼桜花そうおうか学園の魔女は、特に焦った様子もなく、周囲の魔女に視線を巡らせる。


「どうもこうも、特に何もないけど?」


 やはりこの人は冷静だ。

 魔女としての力も優秀だが、頭の回転もかなり速いんだと思う。案外俺たちがあの囮作戦に考案した日常習慣にボディガードを付けていたことも、最初から気づいていたのかもしれない。

 そう思えるくらいには、この状況に動揺の色を見せない。


「私は、好みの男とちょっとお話したいなーと思って顔を貸してもらっただけ。強引に連れ去った? 強引さで九王院の魔女に勝てる気はしないんだけど」


 周囲からブーイングが起こるも、委員長も魔女も冷静である。


「では、もう用事は済みましたか?」

「悪いね。茶番に付き合わせて」

「自分で自分の言い訳を茶番と言わないでください」


 魔女は「そりゃそうだ」と一笑すると、俺を見た。


「いい仲間に囲まれてるね。強引そうだけど」


 まったくだ。

 クラスメイトと苦楽を共にし、お互い困ったことがあったら助け合う。

 一人じゃできない、夢にまで見た都会の学校生活を、こんな形で実感するなんて思わなかった。


 今度は俺が、誰かを助けたいものだ。


 ふっと、魔女が真顔になった。


「私の仲間なんてアレだよ?」


 ……うん。それにはちょっと、同情したい。

 見ないように、そして気づかないようにがんばって無視していたのだが……改めて見るとひどいものである。


 ――途中からやたら静かになっていた女子1とヘンタイの女子3は、いつの間にか、持ち込んでいた『魔女水ウィッチウォーター』を飲んでお菓子を食べ散らかして、眠りこけていた。


「もう解散でいい? 私はあいつら連れて帰るわ」


 それでも見捨てないのか。俺なら置いて帰りそうなものだが。


「私たちとしては、貴椿くんと乱刃さんを解放していただければ、ここにいる理由はありません」

「じゃあそれで。よろしく」


 こうして、1年4組総員 (一名欠席)を巻き込んだ事件は、幕を下ろした。






「――あ、そうだ」


 委員長の解散宣言が出て、ぞろぞろとこの場を去るクラスメイトたちと一緒に、俺と乱刃も外へ出ようとして動き出した時。

 魔女が俺たちを呼び止めた。


「私の名前は雨傘才歌あまがささいか。蒼桜花学園の2年生。特にまた会う予定はないけど憶えといてね、貴椿。乱刃」


 再会する予定はないが。

 しかし俺も、なんとなく感じていた。


 彼女――雨傘才歌とは、いずれまた会うんだろうな、と。





「もうすぐ八時になります。速やかに帰宅してください」


 九王院の魔女の多くが、親元を離れて学園が用意している寮にいる。こんな事件のあとでも、門限厳守は必須事項である。

 もちろん俺たちも例外ではない。

 早く帰らないと、管理人さんにまた怒られてしまう。


 しかし、ここはどこだ?

 外に出たところで、この辺がどこら辺なのかわからない。街灯の少ない辺りは暗く、似たような建物が並び……やはりどこかの倉庫街だろうか? 九王町にこんなところがあるのか? そもそもここ九王町か?


 俺は『瞬間移動』で誘拐されたので、ここに至る道順なんて存在しなかった。

 乱刃もたぶん憶えていないだろう。案外方向音痴だから。


 少し高いところから周囲を見れば、九王院の巨大なくすのきが見えるかもしれない。

 まあ今回は迷う心配はなさそうだが。委員長いるし。


 クラスメイトたちは口々に俺と乱刃に声を掛けると、各々さっさと帰途につく。

 こういう時、魔法は便利だなと心底思う。

 『瞬間移動』いいよなー楽そうで。俺も魔法が使えたらなー。


「私たちも行こうか」


 恐らく俺たちを送るため最後まで残ってくれた橘が言うも、これまた送ってくれるために残ってくれたのだろう委員長が「いえ」と首を横に振った。


「先に挨拶をしておかないと」


 委員長が、とある方を指差す。

 それを追うと――お、北乃宮! そういや来てるって言ってたな!


「終わったか?」


 落ち着くのを待っていたのだろう北乃宮は、数名の女子を引き連れてこちらへやってきた。


「おつかれー」


 その数名の女子は、風紀委員の七重先輩と、御鏡先輩と、華見月かみつき先輩と……あと見たことのない人が一人。この人はたぶん風紀委員じゃない……あっ、「風紀」じゃない!


 なんとなく違和感があると思えば、左腕の腕章の字が違った。

 そこには、もう見慣れた「風紀」ではなく、「生徒会」の文字が刻んであった。


「――初めまして。生徒会の蛇ノ目(じゃのめ)です」


 初めて見る「生徒会」の腕章に驚いていると、その人は自己紹介した。


「君と同じ1年だよ。貴椿くん」


 1年かよ。隣の七重先輩より存在感あるから2年生か3年生かと思ったよ。


「で、終わったの? 問題あった? なかったよね?」


 七重先輩は、問題はなかったということでさっさと帰りたいようだ。


「というか、なんでここに?」

「あたりまえだろう」


 応えたのは、副委員長の華見月先輩だ。


「襲われる可能性が高い生徒を放置などできるか」


 ……そう考えると、風紀の人たちからすれば、何も手を打たないわけがないのかもしれない。

 もしかしたらクラスメイトと同じように、毎日俺たちを影から見守っていた可能性もある。


 何にしろ、こうして来てくれたのは、これも俺たちのためだろう。この人たちにも迷惑をかけてしまった。


「ごめんね。本当は私たちの仕事なんだけどね」


 蛇ノ目は謝罪の後、簡単に生徒会の役割を話してくれた。


 曰く、学校内の揉め事は風紀委員の管轄、学校外の揉め事は生徒会の管轄と、線引きと役割分担ができているらしい。

 ただし、春はいつも人手不足になるので、状況に合わせて連携するそうだ。今日このように。


「今回は学校外での活動だから、一応生徒会のメンバーに同行してもらったわけ。無断で校外で活動して、あとから生徒会に小言言われるのも嫌だしね」

「私としては七重委員長代理が現場に来たことに驚いていますが」

「そう? この二人、風紀に欲しいと思ってるから。生徒会にはあげないよ」


 あ、スカウトの話……でも乱刃はもう断ったと言っていたが。七重先輩は諦めてないのか。


「――言わば点数稼ぎさ。こうして小さな恩を売って重ねて断れない状況に持っていく……私はストレートな甘い言葉も好きだけど、外堀を埋めて逃げ場所を奪っていくのも嫌いじゃないからね」


 赤裸々すぎるだろ。本人たちの前で。


「代理、詳しい報告は後日にしましょう。そろそろ時間です」

「門限です。帰りましょう。乱刃、貴椿両名は、明日風紀委員室に出頭し、本日の顛末の報告をするように」


 御鏡先輩が門限を告げ、華見月先輩の通達があり、今度こそ本当に解散した。





 委員長と橘が九王荘まで送ってくれた。

 そうそう、委員長は『瞬間移動』が得意で、家系からの遺伝が強いらしい。きっと移動だけではなく、もっと高度なこともできたりするのだろう。


 結構な長距離を一発で移動し、九王荘の前で別れた。

 外階段を登っている途中で、買い物した荷物を道路に置いてきたことを思い出す。


 ああ……メインの刺身がなくなったか……


 残り物で夕飯を――と考えながら登りきると、俺の部屋の前に、管理人さんが立っていた。


「――おかえりなさい。事情は聞いているから」


 どうやらクラスメイトの誰かが――特徴を聞く限りでは縫染ぬいぞめ小夜さよが、置きっぱなしにしてしまった買い物袋を、いったん管理人さんに届けておいたらしい。その過程で簡単に事情を説明し、「もし門限を過ぎても今日だけは許してください」とお願いもしたそうだ。


 なんと細やかな気遣い。

 これは確実に明日お礼を言うべき案件だ。


 

 ありがとう縫染。

 これで今夜はごちそうだ! 海鮮丼だ!











評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ