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Witch World  作者: 南野海風
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159.貴椿千歳、警戒する(女子編)







 北乃宮に指定されたのは、先の魔獣狩りで学園長が無双していた森林公園である。


 人化し、蒼桜花そうおうか学園の制服姿になったアルルフェルの「瞬間移動」で、あっという間に現場に到着した。ちなみに本人はへそを曲げたままである。


 「瞬間移動」の回数は、10回足らず。

 1回の移動距離を考えると、「瞬間移動」にしてはかなりの距離を移動していることになる。


 ……薄々感じていたが、猫の能力は高いな。

 使い魔は使役する魔女の影響を多大に受けるが、使役する者を超える力を有することはない。

 要するに猫の主もヴァルプルギス……レベル7の魔女である可能性がある。というかたぶんそうなんだろう。気軽に連中に絡んでいる時点で。

 本人にはまだ会っていないが、……というか、まあ、会わなくてもいいかな。強いて会う用事もないし。レベル高い魔女は灰汁が強いし。


「――貴椿くん」


 公園入口付近には、誰もいない……いなかったはずだが、蛇ノ目がいた。

「瞬間移動」で現れた、ようには見えなかったが……街灯があるから見逃したとも思えないが。


「もう『隔離』してあるの。こっちへ」


 直立する立体魔法陣を描き、くぐるように言う。


 隔離……というと、検定や第一体育館のように、別の空間に移したって話か。そうか、蛇ノ目が急に出てきたように見えたのも、「隔離した空間」から出てきたからか。


「ボクは帰って寝る!」


「いいから早く行け」


 まだまだぐずっているアルルフェルの背中を押して、乱刃がさっさと行ってしまった。あいつは本当にマイペースだな。


「乱刃さん、連れてきたんだ」


「この分だと余計だったみたいだな」


 状況を聞いてなかったせいで、こうなってるなんて思わなかった。もう「隔離」したなら、調査もへったくれもないしな。


 というか、それなら俺が呼ばれた理由からしてわからない。

 ここまでできるほどの魔女の力があるなら、俺なんて呼ばずにさっさと解決してしまえばよかっただろうに。


「……いや、ある意味鋭いかもしれないよ」


 と、蛇ノ目は腕を組み、凛々しい表情を引き締める。


「実はね、貴椿くん。今は泳がせてる(・・・・・)段階なの」


 あ? 泳がせ……え?


「どういう意味だ?」


「私も正式に聞いたわけじゃないけど、上の判断に疑問がある。

 北乃宮くんのお父さんと学園長と警察と、そして空見……生徒会長が複合して動いてる。これ、どう考えても『ただの魔獣狩り』にはオーバーすぎるのよ。迷い犬探すのに国が動いてるってくらいにね」


 ああ、それは俺も薄々思っていた。

 世間に知られてはならない「呪い」のことがあるからスピード解決したいんだろう、と納得はしていたが、それにしたって豪華な布陣と言わざるを得ない。

 子供の手をひねるためにアームレスリングやってる大人が集まった、くらいのイメージがある。


 北乃宮・父は、どう見たってプロの騎士だ。

 ()娘も息子も只者じゃないだけに、普通の騎士とも言い難い存在なんだと思う。言わばその世界では重鎮とか有名人とか、そんな感じだろうな。


 空御門先輩は、言うに及ばないだろう。

 レベル7以上の魔女ってだけで充分な力を持っている。


「静かに、かつ迅速に調査し、問題の魔獣は見つけた。ただ疑問が残るよね」


 疑問か。


「『呪い』を振りまく魔獣は、地下にいたらしい。下水道にね」


 地下か……そりゃ地上を駆け回ってても見つけられないわけだな。


「――結論を言えば、自然に湧いたとは思えない場所に魔獣がいた」


 おっ。


 俺たちが入らないまま残っていた立体魔法陣から、風紀の黒髪メガネ・御鏡先輩が出てきた。あと乱刃も。

 たぶんいつまで経っても来ないから様子を見に来たのだろう。


「――人災の可能性があるわけだ。誰かがそこに魔獣を置いた可能性がある、と」


 人災、だと……? 


「蛇ノ目、伝言だ。このまま外で待てとさ」


「わかりました」


 ちょっと待て。

「呪い」を振りまく魔獣が誰かの手で用意されたものだ、と仮定しているのがこの状況下。


 問題は、誰が、なんのために、だよな?


 さっき蛇ノ目が言った「泳がせる」って言葉は……まさか今、これをやった犯人を待っているのか?

 そう考えれば、「何がどれだけ来たって対応できる優秀なメンバーが集められた」というこの状況とも、矛盾しなくなるが……





 にわかに俺の中で警戒心が仕事をし始めた中、更なる人物が合流した。


「ククッ……血の騒ぐ夜だ。なあ戒?」


 彼女は夜の闇の中からやってきた。

 まったく気配を感じさせずに。

 それもそのはず、相手は子供――のような体躯になってしまっている、乱刃にとって姉妹、俺にとって師匠とも呼べる存在。


 北霧きたきり麒麟きりん

「呪い」で幼稚園児並みに小さくなっている一つ上の先輩だ。


「先程から我の勘が告げておる。何かがありそうだ」


 今日も子供らしからぬ剣呑な目をしている。いつも通りだ。


「そうだな。どうにも心がざわつく夜だ。まるで気配を殺した狩人につけ回されているかのように落ち着かん」


 常人や魔女にさえ何も感じない今、乱刃も何かを察知しているようだ。

 いや、まだ察知はしてないのか。


「――来るぞ。何かが必ず来る」


 だが、とても無視することができないような、気になることを言っている。


「我も同じ意見だ。――おい、迎撃の準備をせよと北の守人に伝えろ」


 え、マジでなんかあるの? 俺は何も感じないんだが……でも麒麟先輩や乱刃が言うなら、何かはあるかもしれない。


 ……そうか、だから俺が呼ばれたのか。


 その「来る何か」は、魔女なんだろう。魔女同士の戦いとなれば、騎士がいるだけで戦い方の幅や状況打破の手段が増えるからな。

 俺が呼ばれたのは、「一応」だな。

 今回関わっている騎士が魔女に比べて圧倒的に少ないから、アルルフェルじゃないが猫の手も借りたかったってとこだろ。


 それはそれとして、まさか麒麟先輩も関わっているとはな。

 九王院学園だけの問題ではないから、いろんな所が動いているってのは納得していたが……


 きっと、誰かが俺と同じように「調査なら点拳伝承者」と考えて呼んだに違いない。


「麒麟先輩も関わってたんですね」


「ああ。警察には少々借りがあってな」


 警察に借り……うん、あんまり深くは聞かないでおこう。







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