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Witch World  作者: 南野海風
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158.貴椿千歳、夜中に起こされる(女子編)






「――調査? 別に構わないが」


 詳しい説明をするまでもなく、乱刃は即答した。「ちょっと手を貸してくれ」と言っただけで。


「いいのか? 事情も分からず請け負って」


「千歳が呼ぶならな。私はそれに応えるまでだ」


 そうか。

 なんというか……まあ、そうか。


 まあとにかく話が早くて助かる。乱刃にとっても他人事じゃないしな。


「じゃあこのからあげをやろう」


 許可を出すなり、熱い眼差しを受けていたからあげは乱刃の口へと消えていった。


 ……どうやら餌付けは順調に進んでいるようだ。まったくその気はないんだが。





 夕飯時にそんな話をして、明日、空御門先輩に相談してみようかと思っていたのだが。

 事態は夜の内に動いていた。





 沈んでいた意識が、電子音に呼び出された。

 目を開ければ真っ暗な室内。まだまだ夜……というか、夜中か。


「うるさいなー」


「いてっ」


 切り株テーブルに置いていた携帯が、電子音を鳴らしながら、寝ている俺の顔面に落ちて来た。くそ、角が額に……


「おい、気をつけろよ」


 などといっても、相手は聞いてないのだが。完全に寝てるから。


 今夜も忍び込んできたアルルフェル(ねこ)は、テーブルの上で伸びきっている。察するに携帯を蹴り落としたようだ。うるさいから。……自由だな。


 受信ボタンを押しつつ時刻を確認すると……え? 二時半? 夜中の?


「――貴椿か? 俺だ」


 勇ましい口調の女子の声――今は女子の北乃宮である。


「寝てた」


「だろうな」


 うん……ちょっと眠いけど、しっかりしないとな。

 ただの悪戯電話なわけがない。きっと「呪い」の件で進展があったのだ。


「例の奴が見つかった」


 やっぱりそうだ!


「一刻を争う事態だということは、昨日説明があった通りだ。よって今すぐ排除することになった。君も手伝ってくれ」


 え?


「そんなに厄介……つーか、俺の手なんて必要ないだろ?」


 検定の時のように、何か縛りがあることじゃない。

 手が足りないなら、それこそプロの騎士を呼べばいい。北乃宮は優秀だし実際結果も残してるが、俺みたいな素人が現場にいても邪魔になるだけだと思うんだが。


 魔女の「瞬間移動」を駆使すれば、外部から連れてくるのもたやすいだろう。

 手配も移動もそう時間は掛からない。

 実際そうやって移動時間の短縮を狙う忙しい人もいるからな。騎士云々問わず。大企業の社長とか重役とか。まあ色々規制はあるらしいが。


「責任者である親父の判断だ。真意は俺にもわからん。

 が、君の疑問には応えられる。


 まず、騎士の起用は記録が残る。必要以上に大事にしたくない親父と学園長の意向だと考えられる。

 事は『呪い』が関わっている案件だからな。公的機関けいさつも率先して協力体制を取っていることからも、できるだけ穏便に済ませたいのだろう。


 あとは事情を知る者……関係者を外部に作りたくないとか、報酬の交渉や設定が面倒臭いとか、周囲に知られないためだとか細々とした理由も考えつくが、結局はこれ以上騒ぎを大きくしたくないからだな」


 ……夜中でも北乃宮は冴えてるなぁ。

 ……長々と説明してくれて悪いが、まだ寝ぼけてる俺の頭には半分も入ってないわ。


「わかった。準備する」


 事情については半分も入ってないが、呼んでいるようだから行くか。

 果たして俺がどれだけ役に立てるかわからんが……あ、そうだ。


「乱刃も連れて行っていいか?」


「乱刃?」


「昨日少し話したら、手を貸してもいいって言ってた。調査に混ぜていいか聞くつもりだったから」


 あいつの察知能力は非凡なものがある。現状がよくわからないが、少なくとも邪魔にはならないだろう。いざ逃げるとなれば俺より速いしな。


「そうだな、あいつならいいだろう」


 北乃宮から許しも出たので、これからの流れと合流地点について話し、電話を切った。


 ――よし、とりあえず顔を洗おう。





「呼んだか?」


 もしやと思って壁の薄い隣室に向かって呼びかけてみたら、件の乱刃戒が普通にやってきた。

 この時間に、大して大声でもないのに聞き届けて反応できる辺り……やはりこいつの察知能力は高い。


 まあ、相変わらず慣れないスカートに四苦八苦しながら制服に着替えた俺に対し、乱刃は短パンにシャツという完全なる寝巻きのままだが。

 さすがに呼び出しの要件まではわかっていないようだ。


「昨日言った調査に進展があって、これから動くらしい。付き合って欲しいんだが」


「わかった。私も着替えてくる」


 フットワークの軽い乱刃を見送り。

 あとは、変わらずテーブルで伸びきっている猫を起こすだけだ。


 当初は魔女の誰かが迎えに来る予定だったが、今ここに魔女の使い魔がいるのだ。手伝わせない手はない。無駄に寝かしたままにする理由もない。


「――ヒィ!?」


 腹を撫でたら、この猫は起きるのだ。

 以前、普通の猫だと思って触ったら飛び起きられたので、それ以降あまり触らないようにしていたが。しかし呼びかけるよりはこの方が早い。


「な、なんだよ!? 襲うのか!? ついにその気になったのか!?」


「どういう意味で言ってんだよ」


「なんだ違うのか……何が草食系だよ。女が腹出して寝てるのに平然としやがって……絶食系かよ」


「おまえは猫だろ」


「もういいかげん来いよ! 抱けよオラァ!」


「わかったわかった」


「そういう意味じゃねえよぉ! もっと荒々しく……まあこれでもいいけども!」


 猫は自由だなぁ。

 何言ってるかさっぱりわからんが。


 ――激しくぐずる猫を適当にあやし、着替えてきた乱刃とともに行動を開始した。







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