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Witch World  作者: 南野海風
139/170

138.魔女の穏やかな日々 十七





 集合場所として指定されているのは、九王院学園の体育館。

 ぱらぱらとやってくる魔女たちは、すでに二十名ほどになっていた。

 今日行われる騎士検定試験に参加する魔女……ではなく、その裏方で雑用を任される魔女たちである。


 顔ぶれを見れば、私を含め、低レベルもしくは新米魔女が集っていることがわかる。


「結構待たされるね」

「そうだね」


 新米魔女仲間である海堂かいどうナギさんと陣内じんない真可まかさんも、裏方参加希望でここにいる。バイト代も出るし、きっと暇だったんだろうね。


「あと3分あるからね」


 携帯で時間を確認すれば、正確な集合時間にはまだ至っていない。……まあ我ながら無駄に細かいこと言ったような気がするけど。


「細かいなぁ」

「橘さんってそういうタイプだったっけ」


 ほらつっこまれた。いくら思いついたからって言うんじゃなかったわ。

 私は全然細かくもないし、几帳面でもないのに。


 だが、その人はきっと、細かく几帳面なんだろう。


 指定時間ジャストになると、「注目!」と大声が張り上げられた。これだけ女が集まれば姦しさも相当なっものだったが、それをも貫くような強い声だった。

 しんと静まると、ステージ上に数名の女生徒がいた。


 さっきまではいなかったはずだ。

 まあ、きっと、時間ちょうどに『瞬間移動』でやってきたのだろう。


「風紀委員長の七重だ。今日は朝からごくろーさん」


 あ、あの細目の人、知ってる。後ろにいるメガネの人も。どうやらステージにいる人たちは風紀委員らしい。


「じゃあカミちゃん、あとよろしく」


 相変わらずゆるい態度で下がり席を空けると、犬耳の人が前に出た。


「――あの人、レベル7以上なんだね」

「――風紀の副委員長だよね。名前は知らないけど」


 そうそう、私も何度か校内で見たことがある。

 初めて見た時は「オタク丸出し系ファッション!?」と思ったものだが、あの犬耳ってファッションじゃなくて、魔力の可視化現象なんだよね。あれが起こるのはレベル7以上の高レベル魔女だ。


 私たちがこそこそ話している間に、犬耳の人は注意事項を話す。さっきの大声もこの人みたいだな。なんかすごく凛々しいなぁ……犬耳は可愛いのに。これがギャップ萌えか。


 ま、基本的には黄色い腕章を着けたスタッフの指示で動けばいいらしい。

 魔女も裏方スタッフも、よその学校からの参加者も多いから揉めないように。

 かいつまんで言えば、そういうことみたいだ。


「それと、これが一番重要なことだが」


 そう前置きし、犬耳の人は厳しい目で私たちを見回す。


「男子生徒への声かけ、ナンパ、アドレスの交換、許可のないタッチ、物陰に引っ張り込んだり呼び出したり等々の破廉恥な行為は基本的に全面禁止だ。事が露呈した時点で即解雇となる可能性が高いことは覚悟しておくように」


  ええーーーーーー!?


 体育館に不満の声が満ちた。

 全然そんなこと考えてなかった私も、なぜだか不満の声を上げていた。


 そう、冷静に考えると、騎士志望の男子って多いんだよね。

 私のクラスの男子二名だって漏れなく今日の試験に参加するって話だったし、よその学校からも男子が来るとなれば……


 男だらけの試験会場ってことになるじゃないか!!


 なにその心ときめく場所。

 現世のハーレムか。


 しかし、瑞々しい男子たちを目の前にして、声をかけたり物陰に連れ込んだりしてはいけないらしい。

 なんだよもう……

 これじゃまるで蛇の生殺しじゃないか……!


 ……って、少々情熱と欲望が心から溢れてしまったものの、遊びに行くんじゃなくて仕事しに行くわけだからね。そりゃそうだわな。バイト代も出るし。


 結局のところ、遊んでないで仕事しろって意味だしね。


「……この注意は毎回言っているんだが、なぜ毎回不満の声を上げる?」


 犬耳の人が困ったような顔をしていた。


「――なぜってモテないからだよね」


 はあ?


 しれっと、または何気なく禁句を口にした陣内さんには、私と海堂さん含めた周囲の魔女からも、敵意の視線をプレゼントしておいた。ガチ睨みしておいた。

 はっはっはっ、ビビれビビれ。

 マジで怯えてしまえ。

 だいたい自分だってモテないくせに。


 ……くそ。ヘコむから現実を見せつけるようなこと言うなよ……





 注意事項の確認を済ませ、業務内容の契約として書類にサインをし、私たちは一人ずつ試験会場へ繋がる魔法陣へと消える。

 その先では、真っ白い床と壁と天井に囲まれた、現代とは別次元に用意されたのだろう市営体育館のような立派な建物がまず目に入る。やっぱ高レベル魔女の仕事はすごいな……こんな大掛かりな空間と建物、どうやって作ったんだ? 私もいつかできるようになるのかな? レベル的に無理かな?


 人も多い。

 うふふ。

 男子も結構……多いじゃないか……!


 期待してなかった分だけ嬉しい裏切りを受けた気分だ。ニヤニヤしながらきょろきょろ辺りの男子を見回していると、「橘さん、こっち」と呼ばれた。


「あ、白鳥先生」


 私たち1年4組の担任である。

 黄色い腕章を着けているので、今日は先生も裏方として参加しているようだ。

 まあ、私にこのバイトの話が回ってきた段階で、人手不足って話だったもんな。さっきの風紀委員や白鳥先生なんかは、割と率先して借り出されているのかもしれない。


 先に行っていた海堂さんと陣内さんとも再び合流し、私たち三人と面識のない二人の五名が、白鳥先生の指揮下に入ることになった。


 えーっと……開始時間が9時で、終わるのが4時だったか。


 よし。

 チラチラ男子を盗み見しながら、がんばるぞ!











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