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Witch World  作者: 南野海風
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116.貴椿千歳、はじめての検定試験に挑む 4






「後でな」


 受付を済ませた俺たち九王院学園総合騎士道部は、それぞれの試験場へと向かうべく奥へ行く。


 北乃宮も、俺に一言告げて行ってしまった。

 北乃宮は本人同士の強い希望で、風間と二人でのチームになっている。確かあの二人は幼馴染なんだっけ。


「いつもみたいにダラダラして、三動王さんに迷惑かけるんじゃないわよ! あんたと違って三動王さんは期待の1年生なんだからね!」

「へいへい。じゃーな貴椿、國上」

「また」


 それこそいつものように哀川先輩の文句が出て、綾辺先輩は軽く受け流し、先輩と同じチームになっている三動王と話したことがない3年生の三人チームも試験場へと向かった。


 紫先生と新名部長は、構成的に、三人1チームって構成で班分けをしたようだ。

 それも1年生、2年生、3年生がうまくバラけるように。


「貴椿くんは初めてなんだよね?」


 綾辺先輩を見送り、振り返る哀川先輩は、穏やかな表情だった。

 この対応の差は……比べると天と地ほど違うのが、なんだかすごいが。

 しかしそんなことはどうでもいい。

 

「初めてですよ。まだまだわからないことだらけです」

「だったら、大まかな役割だけ決めておこうか」


 いきなり実戦に入っても対応できないからね、ともっともなことを言う。

 そう、これはチームで臨む試験だ。

 俺一人なら、経験も乏しいので臨機応変にやるしかなくなるが。


 頼れる……かどうかまだ未知数だが、とにかく味方がいるのだ。

 一人でやるよりは有利に運べるよう、打ち合わせくらいはしておいてもいいだろう。


「でも、決定ですよね?」

「そうね」


 経験者たちはもう、やりやすい形がわかっているようだ。

 声を揃えて宣言された。


「「貴椿くん、先頭ね」」


 先頭……

 つまり、率先して魔女の魔法や攻撃を受けろ、と。そういうことになる。


 事実だけ取れば「身を挺して盾になれ」と言われているわけで。

 ひどいものだが、そこはもちろん勝算あってのことである。


「いや、貴椿くんと同じチームになるなんて、運がいいなぁ。今回はいいとこ行きそうですね、哀川先輩」

「そうね。初参加のホープなのに不安がまったくないっていうのも、すごいね」


 は、はあ……


 話を聞けば、前に紫先生が言っていた通り、らしい。

 俺の抗魔法アンチマジックは、すでに高校生ではトップクラスで、そんじょそこらの魔女の魔法なんて絶対に通さない……らしい。

 絶対に魔法を通さない優秀な先頭たてがいれば、後方に控える二人は攻撃に専念できる――らしい。


 そうは言われても、やっぱりちょっと、まだ試験のことがわからないだけに自信はないのだが。

 しかし、それにしても。

 自らの実力に自信が持てない俺より、彼女たちの方が俺の実力を信じているというのも、なんだか変な感じである。


 魔女と遭遇した時は、俺が前に立って魔女の攻撃を凌ぐ。

 都会の常識ではほとんど真逆らしいが、俺は島で「女は守れ」と言われて育てられた。

 哀川先輩や國上を先頭に立たせて攻撃魔法に身を晒させる、なんてことは抵抗があるので、俺はこれでいい。


 騎士でもあり魔女でもある哀川先輩がアタッカー……攻撃役として魔女を仕留める役だ。

 哀川先輩の強みは、魔法が使えること。

 つまり中距離や遠距離から攻撃することができるってことだ。

 単純な『瞬間移動』だけ取っても、使用すればいきなり魔女の真後ろに移動することができたりするわけだから、哀川先輩がいるだけで攻撃の幅は非常に広くなるはずだ。


 そして國上は、視野を大きく取って状況を把握したり、指示を出したり、魔女を牽制したりする遊撃役。

 なんでも、色々と魔道具を持ち込んでいるので、状況がちゃんと見えていないと魔道具使用の際に俺たちを巻き込むかもしれないんだとか。

 いったいどんな危険物を持っているのか……やはりちょっと不安だ。


 二人とも自然とこういう役割分担を思い描いていたらしい。

 なるほど、確かにバランスを考慮してチームを構成したって証拠なんだろうな。


 こんな役割分担を悩むことなくパッと決めて、俺たちも試験場へと向かうことにした。


 ――余談だが、道具や武器の持ち込みは許可されている。魔道具は規定レベル2までで持ちきれる量なら持ち込みOKだ。

 ただし銃刀法は破れないので、刃物系なんかは認められていない。





 体育館入口から廊下を歩き、壁に貼ってある案内指示に従って奥へと向かう。

 場所で言うなら、国際大会などで柔道や剣道をやるような、ものすごく広い競技用空間だ。


 そして、そこにはたくさんの人がいた。


 騎士志望も魔女も、いたるところにいて。

 空気は、非常に重い。

 人が多いのにどこか静かで、高い天井の隅にまで緊張感が張り詰め、満たされている気がする。

 俺たちと同じ九王院の黒い制服だったり、蒼桜花の青い制服だったり、見たことがない制服もあったり……なんか私服の連中もいるけど、あれは学校機関に属さない団体なんだろうか。


 ちょっとした違和感があるのは、俺を含めて男の参加者も少なくないことだろう。

 こんなに同年代の男子がいる空間なんて、初めてかもしれない。


 肌が痛くなるほどピリピリした雰囲気の中、哀川先輩に導かれて俺と國上は移動する。

 参加証はポイントを測定するだけではなく、会場でのガイダンスもしてくれる。首に掛けた時から浮かんでいる「9時30分までに第六魔法陣に入る事」の指示に従い、俺たちは第六魔法陣を目指していた。


 この広い体育館の床には、複数の巨大な魔法陣が敷いてある。

 俺たちは魔法陣に乗って『転送』し、それぞれ場所が異なる試験場へと降り立つことになるのだ。


 わかりやすいように並んで設置されているだけに、第六魔法陣はすぐ見つかった。


「トイレとか大丈夫? 試験始まっちゃうとどうにもならないよ」


 大丈夫、の意味を込めて俺と國上は頷く。


「じゃあ、ちょっと早いけど行こうか」


 と、哀川先輩は率先して魔法陣に乗り、光の粒子を撒き散らして消えてしまった。

 ――今の魔力の流れからして、魔法陣は参加証と連動しているようだ。この参加証が起動キーにもなっているのだろう。

 たぶん試験場を間違えないように、という配慮も含めての処置だろう。参加証が起動キーなら間違いようもないし。


「じゃあ」


 お先にどうぞ、と國上に先を譲ろうとしたその時。


「あんた参加者?」

「ん?」


 その辺にいた赤い制服の……たぶん騎士志望ではなく魔女三人が、俺たちを囲んだ。


 というか、俺を囲んだ。

 バリッバリに俺の方しか見てないし。國上どうでもいいって感じだし。


 それにしても、赤い制服って初めて見るけど、どこの高校の制服なんだろう。


「何か?」


 俺を見る彼女たちの視線と雰囲気は、あまりよくない。

 初めて九王町に来た時の、雨傘たちに絡まれたアレと同じようなものだ。


 ……また三人の内の一人が、度し難いレベルのヘンタイだったりするのだろうか……そっちの可能性の方が俺の緊張感を煽ってくれている。

 え? 魔女に囲まれてる?

 婆ちゃん一人の方がよっぽど怖いから、別にどうでもいい。


「私たちも、今から第六で魔女やるんだ。つまりあんたらの敵役をやるわけ」


 真ん中の、いかにもリーダー格って感じの魔女が、ニヤリと笑って右手を出す。


「よろしく」


 握手……ねえ。


「はい、じゃあ、よろしく」


 俺は躊躇なく手を握った。


「…………」

「…………」


 余裕の笑みが、消えた。


「……あんた、名前は?」

「貴椿です」

「そう。私は赤蘭学院の西方にしかた


 せ、せきらん……学院? そんな高校もあるのか。


「――貴椿、あんた『無能』のくせに生意気。あんたは私が泣かすから」


 そう宣言すると、西方は仲間を連れて魔法陣へと消えた。


 うーん……


「だ、大丈夫だった? 止められなくてごめん、普通に挨拶してただけだったから……」


 確かに止める理由もなかったんだろうな。

 雰囲気は悪かっただろうが、普通に挨拶して、本当にそれだけだったし。


「生意気って言われた」


 「最近千歳は生意気だな」と島でちょくちょく言われていたせいか、少し懐かしかった。

 遠い昔のことのようだが、実はつい最近まで言われてたんだよな。


「……大丈夫そうだね」


 俺の間の抜けた返答に、國上は呆れたようだ。


「あれ、なんだったんだ?」

「典型的な騎士狩りだよ」


 ……騎士狩り?


「あんまり聞こえはよくないけど、魔女以外はみんな下って考えてる魔女も、少なくないみたいでね。そんな魔女からしたら、魔女に対抗する力を身に付けようとしている魔女以外の騎士志望なんて、生意気以外の何者でもないでしょ。

 そういう生意気な騎士志望を蹴落とすために参加してるって魔女だね」


 あ、そういうことか。だから会場もピリピリしてるのか。

 魔女上位主義というか、思想のせいか。

 構図で言えば、狩る者と狩られる者だもんな。


 俺はあんまり気にならない。

 だって婆ちゃんの思想や物事の考え方、自分勝手な振る舞い、後始末を考えない自由奔放さ、それらから鑑みて普通に魔女上位主義に傾いているから。

 むしろ婆ちゃんよりひどい魔女上位主義を見たことがないというか。


 でも結局のところ。

 魔女上位主義は、突き詰めれば「魔法という実力があるから普通の人より上にいる」という思想である。

 ある種すごくわかりやすい実力主義ってことだ。

 ならば相手の流儀に合わせて「実力でどうにかすればいい」のだから、わかりやすい話だ。


 俺が島から出るために受けていた婆ちゃんの試験もそうだ。

 めちゃくちゃな難易度だったが、それでも俺は実力で権利を勝ち取った。

 ……運の要素も強かった気がするけど。


 國上が魔法陣に乗るのを見届けて、俺は右手を見た。


 ――ま、挨拶代わりか。


 魔力で肉体強化して、……さすがに握り潰そうとまではしてなかっただろうが。

 ちょっと強めに手を握って痛がらせてやろう的な、ちょっと「いてーっす、いてーっす。ちょ、魔女さんマジ勘弁してくださいよー。魔女さんには敵わないっすよー」とでも言わせたかった的な、まあ、やっぱり挨拶だ。


 中和領域で封殺したせいで、生意気って言われちゃったけどな。









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