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Witch World  作者: 南野海風
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115.貴椿千歳、はじめての検定試験に挑む 3






 いつもは座学に使っている総合騎士道部の部室から、あらかじめ用意されていた転送魔法陣に乗って直接会場にジャンプする。

 移動時間の短縮もあるとは思うが、何より一般公開されていないと言っていたので、試験会場の場所を明かさないための配慮でもあるのだろう。


 飛んだ先は、どこかの競技用体育館の目の前だった。

 テレビで見た柔道とか剣道とかやってるような感じで、学校のものよりもっと大きい。

 

 体育館のほぼ正面に位置するこの場には、いくつかの魔法陣が等間隔で並んでいる。


「……」


 見回すまでもなく、異様なものが目に入る。

 白い床と、白い壁と、白い天井。 


 正面に見える体育館を見れば、ここが屋外なのは確かなのだが。

 しかし周囲は白い床や壁や天井で覆われていて、およそこの世のものとは思えない空間になっている。

 率直に言えば、箱の中、って感じだろうか。


 たぶんこの体育館がある空間は、現実世界とは切り離された場所なんだ。きっと白い壁は突破できず、突破できたとしてもその向こうに空間は存在しないかもしれない。

 こうして転送魔法陣でのみ、ここに来ることができるのだろう。


 婆ちゃんクラスの魔女が数名いれば、亜空間や別次元に「場所」を作るくらいは余裕でできる。

 ここはそういった場所なんだと思う。


「厳重に隠匿する理由は、どんな魔女がいるのかを知らせないため」


 白い空を見上げる俺を、いつの間にか真横にいた紫先生が見ていた。


「国家試験ですからね。企業はもう諦めるとして、他国への情報漏洩はできるだけ避けたいのです」


 ああ、なるほど。

 先日集会に参加した『ヴァルプルギスの夜』も、しつこい勧誘などに対する互助の役割があると言っていた。

 その勧誘の中には、他国からの勧誘も含まれているわけだ。


 国の仕事に就かなくても、日本の企業に就職するなら、まだマシなんだろう。

 問題は、他国に高レベル魔女が渡った場合だ。


 火周一人でどこぞの軍隊と同じ戦力、くらいに思えば、どれだけ魔女が重宝され、また畏怖し、警戒すべき人材なのかわかるはずだ。

 実際婆ちゃんなんて、本気出せばどこぞの軍隊より確実に強いだろうしな。


 しかし、だ。


「企業は諦める、っていうのは?」


 どういう意味だ?

 空間を切り離した場所を試験会場として用意している以上、一般人は絶対に潜り込めない場所である。

 公開されていないなら、企業も含むと思うんだが。


「企業の社員の息子、あるいは娘の参加ですよ」


 あ、そうか。

 社員の身内を投入して、言い方は悪いがスパイというか、情報収集役として堂々と参加しているパターンか。

 そのまんま過ぎて逆に考えつかなかったな。盲点だった。


「企業の回し者だとしても、それが理由で騎士検定への参加を制限することはできませんからね。――実際、貴椿君の隣にもいるじゃないですか」

「え?」


 俺の隣?

 というと、同じチームになった哀川先輩と、國上がいるわけだが。


「あ、私です」


 國上は小さく手を上げた。


「私の親、小さいけど魔道具メーカーの代表だから」


 え、魔道具メーカーの代表って……社長!?





「『KUNI-GAMI』と言えば、最近起業した魔道具制作会社だよね」


 総合騎士道部船員でぞろぞろと移動し、体育館出入り口付近に設置されている受付で、参加証を貰うために並ぶ。

 その短い間に、知らない者同士の交流が自然と行われる。


「哀川先輩も知ってるんですね」

「ええ。魔道具メーカーもブランドも、まだそんなに多くないからね。日本の企業は一応全部知ってるよ」


 そうなのか……案外魔女の一般常識みたいなものなのかもしれないな。

 俺が知ってるのは、あの世界的大発明と言われる『魔女水ウィッチウォーター』を作った『明白あからさま』って会社と、その『魔女水ウィッチウォーター』の制作に乗り出した某有名酒造会社くらいだ。

 一般普及している魔道具なんかは知っているが、会社まではちょっとわからない。

 俺は魔法使えないから、あまり関わることもなかったしな。


「でも名前だけかな。何作ってるのかはよく知らないのよね」


 つまり、まだこれと言った、有名な品物は作っていないってことか。

 魔道具業界自体がこれから伸びるだろうって言われている産業から、今後國上ブランドからヒット商品が出る可能性も低くはないのかもしれない。


「でしょうね。うちは文房具とか玩具方面に進出してますので、女子高生が好きそうな魔道具はまだ出てないんですよ」


 へえ、文房具と玩具。

 魔道具でペンとか玩具とか作るのか。

 

「有名かどうかは知りませんけど、最近は子供が遊びながら使える安価な『魔獣探知機』を作りましたね。色々デザインが出てるんですけど、私のイチオシは竹がぐるぐる回るししおどしっぽい形の『探知機』です」


 ……ししおどしっぽい形の魔獣探知機……だと?

 なんだか俺はそれをよく知っているような気がするんだが。


 もしかしてアレじゃないか?

 持つと田舎者度がグーンと跳ね上がる例の……乱刃が異常に気に入っていた……


「――次の方、どうぞ」


 おっと、順番が来たようだ。

 とにかく今は試験に集中しよう!





 受け取った参加証も魔道具である。

 赤いストラップを通している参加証には、「九王院学園総合騎士道部所属18番 F班 0P」と書かれていた。

 えーと、俺は九王院の総合騎士道部の18番でF班に属してます、という登録になっているようだ。この「F班」ってのが、俺と哀川先輩と國上の班って意味だろう。


 首に下げると、一瞬だけ参加証が発光した。

 これで登録が済んだようだ。


「――最終的に紛失していると失格になりますので、注意してください」


 最終的に?

 ってことは、一時的に外したりってのは、OKみたいだな。


 まあそりゃそうか。

 さっき紫先生が、珍しいケースだが魔女に奪われても奪い返せば復帰できる、みたいなことを言っていたしな。

 外した時点で失格となるなら、辻褄が合わない.


「あれ?」


 同じように首に下げた哀川先輩の顔……左頬に、「0」という文字が刻んであった。もちろん最初からそんなものはなかった。

 不思議そうに見ていた俺に、哀川先輩は簡潔に「現在のポイントだよ」と答えた。

 どうやら、顔を見れば誰がどれくらいポイントを獲得しているかわかるようになっているらしい。これが参加証に込められた魔道具の力なのだろう。


 ちなみにチームエントリーなので、俺たちが取得したポイントは三人で共有されることになる。だから俺の頬にも「0」と出ているはずだ。


 受付から離れると、哀川先輩が細々したことを説明してくれた。

 國上は初参加じゃないので、もう色々わかっているようだが。


「魔女から奪った参加証を、私たちの誰かが参加証に重ねると加点されるんだ。ポイントは共有されるから本当に誰でもいいからね。『脱出』の言葉は誰か一人が唱えたら全員強制的に脱出になるから注意して」


 この『脱出』の言葉は、事前登録が必要で、ある程度は自由に決められるらしい。

 考えるまでもなく、普段使いそうな言葉を登録して「『脱出』の言葉が暴発して終わりたくないのに終わっちゃいました」なんて、非常にマヌケな事故が起こらないような言葉が望ましい。


「試験は合計3回あって、魔女から参加証を奪うと1点、目的地に到着すると5点、制限時間を逃げ切るので5点がプラスされるよ」


 ということは、明日の全国大会……いや試験に参加するためには、最低でも魔女5人から参加証を奪って目的地に到着する必要があるわけか。

 20点以上ってのは、やっぱりちょっと難易度が高いのかな?


「あとはもう試験場フィールド次第で色々変わっちゃうから、これだけ知ってれば今は大丈夫だと思う」


 うーん……

 色々気になるところもあるんだが、経験者が言うならそれでいいか。










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