114.貴椿千歳、はじめての検定試験に挑む 2
「初参加の人も何名かいるので、一から説明します。わかっている人はおさらい程度に耳に入れておいてください」
よかった、俺以外にもわからない奴がいるってことか。
とにかくちゃんと聞いておこう。
「これから皆さんがが受ける試験は、騎士検定乙型です。
甲を一般的に知られる騎士検定、いわゆる筆記試験とし、乙は一般には公開されていない実戦形式に近い実地試験のことです。
魔女、あるいは騎士育成に力を入れている学校や専門団体にのみ募集を掛け、年二回、筆記試験の裏で行われます。
先に言った通り、公開されていないので、事前に詳しい説明ができませんでした。現地に行ったら皆バラバラになるので、基本こうして集めて話すこともできません。質問も今の内にしておいてください」
そっか。公開されてないのか。
防宗峰先輩……いや、婆ちゃんが失礼な手紙を送りつけた白滝高校の一件で、俺は少しだけルールを耳に入れているが。
あれこそ本来ならありえないことだったわけだ。
「まず、試験の概要です。
試験会場に行くと参加証が渡されるので、それを守り通すことが目的の一つとなります。
そして我ら騎士道部から見ると、同じように参加する敵役の魔女からこの参加証を奪い取る、定められた目的地に到着する、己の参加証を守りながら制限時間終了まで逃げ切る、という三つの要素で加点し、得られたポイントで順位を競い合うことになります。
特に重要なのが、参加証を奪われた場合です。この状態で魔女に逃げ切られるとどんなにポイントを集めていても失格となりますので、まず奪われたら終わりだと思ってください」
えーと……うん、ここまでは大丈夫だな。
魔女から参加証を奪ったり、目的地に到着したり、制限時間いっぱい逃げ切ったりすればいいわけだ。
実戦形式か。
確かに「魔女から参加証を奪う」ってのと「目的地に到着する」ってのが、魔女と遭遇した場合の大まかな選択になる。
魔女と戦い奪うのか、魔女から逃げて安全な場所たる目的地を目指すのか。
どの程度の時間が費やされるかはわからないが、「制限時間いっぱい逃げ切る」ってのは、ちょっと現実的じゃない気がするなぁ。
だってこれって、隠れてやり過ごすとか、そういう意味合いが強そうだしな。
何せ魔女は魔法を使うわけだから、本気で探そうと思えば、隠れるなんて不可能……あ、いや、待てよ。
気配を断つ的な抗魔法があるとか、北乃宮が言ってた気がする。
そうか、そうだよな、そういうのも使ってこその騎士の試験だよな。
こうして漠然と考えるだけでも、思った以上にできることの幅が広そうだ。
逆に言えば、魔女に何かされる幅も多そうだが。
「参加証は1点とし、1点使用することでいつでもどこでも『脱出』が認められています。これは『勝ち抜け』というルールで、魔女から逃げられない際の緊急脱出に使えます。
最低でも参加証を1枚奪わないと使えないので、注意してください。
なお、魔女は参加証を奪われた時点で脱落です。奪われた時点でその魔女の参加権はありませんので、無視して先に進んでください」
魔女の参加証は1点で、1点使えば試験を終了できる、と。
そういやさっき加点式みたいなこと言ってたもんな。
「理想としては、魔女と戦い参加証を奪いつつ目的地に到る。これが常道になりますね。
最初から逃げ切ることを目指すのは得策ではありません。なぜなら逃げ回っている間に、追いかけてくる魔女が増える可能性がありますから。
まあ、この辺は各自の班で方針を決めるといいでしょう」
つまり、目的地に到着することでも点数が貰えるから、魔女から奪いつつ目的地を目指せばいいと。
で、たぶん「逃げ切り」でも点数が貰えるんだろうな。
どれがいいかは状況次第、だろうか。
「ちなみにこの辺は魔女も同じルールが適用されています。もし魔女に参加証を奪われた場合、奪った相手が『脱出』しておらず、その試験場で奪い返すことができれば、そのまま続行することができます。
このケースは珍しいのですが、なくはない。このようになる可能性も低いですが、一応憶えておいてください」
一度参加証を奪われても、『脱出』される前に奪い返せば問題ないと。
「だいたい20点ほど集めれば、明日の試験にも参加できるでしょう。その辺も各班で方針を決めてください」
20点。
今日が地方大会で、明日が全国大会って話だ。
防宗峰先輩がいる白滝高校と会えるのは、明日の全国大会ということになる。白滝はこの地区の高校じゃないからな。
20点か……果たして多いのか少ないのかよくわからないが、普通に考えれば結構高いハードルなんだろうな。
「それと最後に、これは個人戦ではなくチーム戦です。二名から四名までのグループに別れ、各々そのチームの一員として戦略的かつ安全に配慮し、行動してください」
そう、俺がもっとも驚いたのは、これだ。
俺はてっきり個人戦だと思っていたが、実際は数名のチームで参加するらしい。
冷静に考えると、そうじゃないとまずいんだよな。
というか試験として成り立たない気がする。
さっき紫先生も少し触れたが、「魔女同士が徒党を組んで俺たちを狩りに来た場合」を想定すると、まず騎士志望の勝率が目に見えて下がる。
魔女一人が相手でも厄介なのに、それが数名となれば、俺だってもう勝ち目がない。逃げ場もないだろう。
何より、参加魔女たちの半分がゴール地点に溜まり、もう半分が一緒に騎士志望者たちを狩りにきたらどうする?
魔女から参加証を奪うことも難しいし、ゴールすることも難しい。もちろん逃げ切りなんて不可能だろう。
だからこそのチームエントリー方式なんだと思う。
一人より二人、二人より三人の方が単純に勝率が上がるし、連携でできることが圧倒的に増える。
それこそ絶対的実力差を覆すような作戦さえ実行できる。
……まあ俺は作戦とかさっぱり思いつかないけど。
「それでは班分けを発表します。メンバー選出は、私と新名部長で考えました。力量を見た上での判断なので、今回はこのチームで参加してください」
あ、そうか。
俺は北乃宮と組もうと思っていたんだが、どうやら先生たちが宛てがってくれるようだ。
……できれば、作戦とか考えられる頭の良いベテランと組みたいものだ。
そして俺の入るチームには、この二人がやってきた。
「よろしくね」
2年生、哀川霞先輩。例の綾辺先輩大好きなのが丸わかりな人だ。
この人は魔女でもあり騎士でもある。
あと綾辺先輩さえ絡まなければ、普通の感じのいい人だ。恋って人を豹変させるんだなぁ、というのがよくわかる人である。
「よろしくお願いします」
俺と同じ1年生、國上咲。
……顔を知っているくらいであとはよくわからないな。総合騎士道部でも俺は実技、國上は座学を中心に活動していたので、本当に接点がなかった。
たぶん哀川先輩とは違い、魔女ではないと思うが。
うーん……
なんといえばいいのか………
面と向かって言う勇気はないが、実力をよく知らない人と組むってのは、だいぶ不安があるなぁ……
特に國上は、本当に何も知らないしなぁ……
「――これで準備は完了です。行きましょう」
先生は出発の号令を出した。突然明かされたチーム分けと、それに対する各々の反応など気にもしていないようだ。
……まあこれだけの人数だし、いちいち気にしていたら何も決められないだろうけど。
しかしこれ、準備できたっつーか、最後に準備不足になったっつーか……
とにかく、俺のチームはこの三人で、これで騎士検定試験に挑むことになるようだ。
正直、不安だ。
北乃宮とか三動王とかと組みたかったなぁ……! 風間も何気に体術すげーのになぁ……!




