表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Witch World  作者: 南野海風
107/170

106.貴椿千歳、二度目のヴァルプルギスの夜に臨む






「――ということになりました」


 今日は学校が休みである。

 二日前に集まったあの豪華な部屋には、時間の融通が利いたのか、約束の時間には全員揃っていた。


 早速俺は、婆ちゃんと話した内容を手短に説明する。


 防宗峰先輩の手紙と、刻道の婚約話は、真実であったこと。

 案の定、後始末は任されたこと。

 「あとは好きにしろ」は結局そういう意味になるから。

 

 その上で、俺は防宗峰先輩と刻道への対応を考えた。


 防宗峰先輩には、手紙の内容通り、騎士検定試験へ参加するという形で。

 刻道には、ついさっき話し合って婚約は一旦破棄させてもらった。


 ……俺の嫁探しのことは、秘密だ。

 この件の根本にある問題かもしれないが、直接関わりがないプライベートすぎることなので、話す必要はないだろう。


「それで……防宗峰先輩、手紙の処分をお願いしたいんですが……」


 あとは、あの失礼極まる手紙の存在のみだ。

 あれさえなくなれば、この揉め事は全部収まる……ひとまずは。


 婆ちゃんのことだから、また何かやらかすだろうけどな!

 案外もうやらかしてたりするかもしれないけどな!


「……」


 足を組んでソファに座っている防宗峰先輩は、縦ロールを弄びながら俺を見ている。


「お嬢様」


 何か答えろ、という意味で傍に控える猫耳・早良先輩が声を掛ける――と、


「手紙は処分しない」


 防宗峰先輩は立ち上がり、そう宣言した。


「というより、できない。あの手紙は白滝高校騎士道部にケンカを売っている。私だけの一存で処分することはできないわ。

 わかっているでしょう? だからあなたは試験の参加を決意した」


 ……やっぱそうなるか。


「勝てるかどうかはわかりませんけど、俺が勝ったら処分してもらえますか?」

「当然ね。買ったケンカに負けたからってごねたりしない」


 うーん……だいぶ厳しそうだが……でも、やるしかないか。


「ちなみに一応念の為に聞いておきたいんですが……防宗峰先輩は、俺と婚約する気は……?」

「その気はないけれど。でもしてもいいとは思っている」


 えっ!?


 驚く俺。

 そして無関係に近い何人かの魔女の目がギラリと光った。


「ねえ睡蓮、あの男どう?」

「嫌いではありませんよ。誠実そうですし」

「防宗峰の婿としては?」

「足りませんね。でもまだ高校一年生、その気になればどうとでもなるでしょう」

「――というわけ」


 どういうわけだよ……


「これもわかっていると思うけれど、手紙は私だけ(・・・)に宛てられたものじゃないわ。私以外(・・・)の誰かが婚約に乗り気になる可能性もある。そうよね、睡蓮?」

「私と結婚しますか? 私は構いませんが」


 ……そうなんだよなぁ。

 「防宗峰先輩の一存で手紙を処分できない」ってことは、防宗峰先輩一人だけが関わっているわけじゃない、ってことだもんな。

 具体的に言えば、白滝の騎士道部全員に関係している。


 ……気が重い。


「これで一応の決着はつきましたね」


 頃合を見計らって、生徒会長が言った。


「あとは防宗峰さんの高校と、貴椿君の問題です。我々が介入する余地はありません」


 そうだな……一応そうなるな。

 本当に、一応。

 この先波乱が待っているとしか思えないが、今この時点では、一応決着がついたことになる。


「話は終わりか? なら何か頼んでいいか?」


 そして乱刃はぶれないな。あいつ絶対夕飯食いに来ただけだろ。





 とりあえず、これで諸々の決着は、本当に一応ついたことになる。

 俺が預かり知らないところでいろんなことが起こっていて、すごく驚いた。


 たぶん、これからも驚くはめになりそうだが……


 とにかく今は、目の前の騎士検定に集中せねば。





 今日は滞りなく集会も終わり、俺と乱刃とアルルフェル(ねこ)は、送迎の車に乗り込む。

 ――あまり関係ないが、今日は刻道との話し合いがあったから、来る時は別々だったりした。


「乱刃」

「なんだ? ふふっ、言ってみるものだろう?」


 うわ、嬉しそうだなおい。

 嬉しそうな乱刃の膝の上には、白い箱が乗っている。中身はケーキだ。「テイクアウトとかできないのか?」と図々しく聞いてみた結果である。

 まあ、学園長の財布は、この程度なんでもないだろうけど。


 ――ちなみに俺の膝の上には猫がいる。自由である。


「千歳にもやるから安心しろ」


 ケーキの話じゃねえよ。……帰ったら管理人さん呼んで一緒に食おうとは思ってるけど。


「この前話したこと、覚えているか?」

「何の話だ? 肉の話か?」


 肉の話好きだなぁ……


「あ、カレーライスの話だな? 実はまだ武士の持ち主を聞いていなくてな」


 そんな話もあったなぁ……あと武士じゃねえ。鰹節だ。

 だが、食い物の話じゃない。


「『点拳』を教えてくれ、って話だよ」

「……ああ、あれか」


 さすがに話題が話題なため、乱刃のゆるかった表情がクッと引き締まる。

 

「事情は聞いての通りだ。少しでも勝率を上げるために、鍛えたい」


 勝たなければ揉める。確実に。

 全て穏便に済ませるためには、やはり勝つのが一番手っ取り早い。


「気持ちはわかった。事情も聞いている。――よし、私が一肌脱いでやろう」


 お、話が早いな。


「だが、覚悟はしておけ。かなりきついからな」


 きついのか……まあそうだろうな。

 乱刃の身体能力を見ていれば、生半可な鍛え方をしていないのは容易に想像できる。


「せいぜいがんばるよ」





 ――そして俺は、二人目の点拳伝承者候補と会うことになる。











評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ