5. 学院生活
学院の授業が始まると、勉強が忙しく、学年の違う殿下のことは案外気にならなかった。たまに、廊下ですれ違ってお互いに挨拶をして、にこやかに世間話をするけれど、それっきり。ランチを食べようとか、休みにお茶会をしようなんて話にはならない。こちらも殿下の噂を知っているので、自分からお誘いする気になれなかった。
それと兄が睨みを利かせているせいか、面と向かって嫌味を言ってくる者はいなかった。クラスメイトも、ステラ組にはまじめで優しい学生が多いのか、誰も下世話な話はしなかった。
今日の授業は変装魔法。最初は髪色を変えるだけの初級魔法から始まる。私は動物や他人の姿にも変装できる。髪の毛の色を変えるくらい朝飯前だ。杖を一振りするとキラキラとした光が髪を包み、私の銀髪を黒髪に変え、さらに金髪に変える。最後に七色に輝く髪色に変えた。
「まあ!その七色の髪、素敵です!何かコツっておありなんですか?」
「エディット様!なかなか鮮やかな色に変えることができなくて。わたくしにもコツを教えて下さいませ。」
「ええ、いいわよ。この七色の髪は私もお気に入りなんだけど、教科書のここに載っている魔法陣を応用して――」
私の魔力量は当代随一と言われるほど多い。だけど魔力が多いだけで魔法を上手く扱えるわけではない。むしろ制御できない強大な魔力は凶器そのものだ。だから、幼いころから、本を読み、師に学び、幾重にも鍛錬を重ねてきた。
「ありがとうございます!自分でも試してみます。」
このクラスに入るということは、皆十分に優秀なはずだ。でも、こうして私を頼りにしてくれるのが、とても心地よかった。
教室がにぎわう中、ふと視線を窓際へ向ける。そこにはいつも一人で座るリアスの姿。クラスの誰ともつるまず、食事も一人だ。あとで、こっそり学院長に聞いた話では、私とリアスの入学試験の成績はほぼ同点。魔法実技で満点をとった私が、彼の総得点をわずかに上回って、新入生代表に選ばれた。
「優秀なのはわかるけど、せっかく留学しているのなら、もっと皆と話せばいいのに。」
そんなふうに思ったけど、余計なお節介か。光の加減で、時々彼の赤い瞳が金色に輝くのが気になった。




