14. 魔法研究所
魔法研究所へ就職するために、私は一人で王都のタウンハウスに移り住むことになった。研究所の臨時職員とはいえ、所長付きの第一補佐官、高級官吏と同程度のお給料ももらえる。初日は正装をと言われたので、支給されたローブに王冠瑠璃勲章を付けて、研究所に赴く。
「エディー・ユカライネン第一補佐官。お待ちしておりました。辞令交付のために所長の部屋にご案内します。」
「ありがとうございます、サリーン首席研究長。」
研究室の廊下は、魔法草や薬品の匂いで満ちている。廊下の奥からは詠唱の声も聞こえる。たくさんの研究員がここで働いているようだ。この国、いやこの世界随一魔法研究施設に胸が高鳴った。
「所長、エディー・ユカライネン第一補佐官をお連れしました。」
サリーン男爵は、黒い扉の前で立ち止まり、中に声をかけた。
「入れ。」
ん?子どもの声?
「では失礼します。」
部屋に入ると、白い髪の毛に赤い眼の少年がちょこんとデスクに腰掛けていた。あ、魔法大会でこちらにぶつかってきた白髪の少年だ。
「闘技場でお会いしたサリーン男爵の親戚のお子さんですね!かわいい!!で、エリアス殿下はどちらです?」
サリーン男爵が眼鏡のブリッジに手を当て、気まずそうな顔をしている。
「ここだよ!ここ。俺がエリアス。お前、何も説明してないの?」
「私から説明して、行き違いがあるといけないので、簡単にしか説明していません。」
サリーン男爵が、申し訳なさそうに告げる。
「あの、エリアス殿下は私と同い年と聞いているんですけど……。」
恐る恐る私の口を挟む。
「お前もお前だよ。わかんねーの?」
「え、どういうことでしょう?」
「――リアスだよ。リアス。リアス・ベックマン。」
「え!?」
どんな呪いを受けたのかは知らないが、幼少期のリアスと言われれば、髪の毛の色以外は違和感がない。驚いて、目をぱちくりさせる。
「お前の未来視通り、第二王子の手の内の赤髪の魔女に襲撃された。知っていたから、やり返したんだけど、倒したと思った隙に厄介な呪いをかけられた。」
ああ、しゃべり方も仕草もリアスだ。かわいらしい少年に似つかわしくない不遜な態度がおかしくて、思わず噴き出した。
「お、お前笑うんじゃねー!」
「いや、だって。見た目が子どもなのに、態度がリアスだから。……くっくっ。」
「おい!」
「で、呪いはどうしたら解けるんです?さっさと解いちゃいましょう。」
「そ、それは……。」
リアスはさっきまで威勢がよかったのに、顔を赤らめて下を向いた。そんなに恥ずかしいことなのか?
「実は解呪条件は……。」
「テオドル、言うな!たぶん……逆効果になる。」
サリーン男爵が何かを察したのか、深く頷く。
「え、でも教えてもらわないと、解けないでしょう。」
どういうこと?私は食いついた。
「すみません。ただこれは私も同意見です。代わりに所長が呪いにかけられた経緯についてご説明します。」




