13. サリーン男爵
「あとこれ。魔法研究所の研究員の方が、あなたにぜひ会いたいって言ってきているけど。」
差出人は、準決勝の相手サリーン男爵だ。ふとパーティーで会ったサリーン男爵の後輩という人を思い出した。根掘り葉掘り聞かれて、めんどくさかった。
「……それ、断れないかしら?」
「私もはじめ断っちゃおうかなって思ったんだけど、王家のハンコが押してあるのよ。正式な面会要請ってことね。」
「ええっ。」
「あんたが大会で優勝しちゃうからでしょ。だから勝たなくていいって言ったのに。とにかくこっちに来るらしいから、よろしくね。」
「はい……。」
数日後、王都からわざわざサリーン男爵がやってきた。
「ユカライネン伯爵、ユカライネン伯爵令嬢、この度は面会の機会を与えて下さりありがとうございます。テオドル・サリーンと申します。」
「まあ、サリーン男爵、お久しぶりでございます。遠路はるばる出向いて頂いてありがとうございます。」
彼は魔法研究所の実質ナンバー2だと、この前の後輩さんが言っていた。そんな人が自らユカライネン領に訪問してくるとは。
「立ち話もなんですから、こちらにどうぞ。」
そう言って、義父が応接間に案内する。メイドがお茶を出す。
「で、わざわざこんなところまで来るなんて、一体どういう用件なんです?」
紅茶を一口すすって、義父がサリーン男爵に尋ねる。
「これは我が主からの密命でして、一旦遮断魔法をかけさせて頂きますね。」
ピリッとした空気が身を包む。
「君の"主"っていうと、魔法研究所所長のエリアス殿下?」
「ええ。これは機密情報なのですが――いまエリアス殿下は第二王子の手の内の者にはめられて、呪いにかけられた状態です。」
「ああ、側妃の息子の第二王子が正妃の息子たちを次々陥れて、王位を狙っているって噂本当だったのね。」
義父が、知っている知っているって雰囲気で話を聞いている。
「――で、うちとその王家の継承争いがどう関係があるの?」
ぎろりとサリーン男爵をにらんだ。こんな義父の表情は初めて見た。
「エディー・ユカライネン、……いえ、こういった方がよろしいでしょうか?――エディット・ユングリング侯爵令嬢。エリアス殿下の呪いを解くには、あなたの協力が必要です。しかるべき地位と報酬はお約束します。どうか、魔法研究所に来ていただきたい。」
――なんで私のこと知っているの?それにもう王族のごたごたは懲り懲りなんだけど。
サリーン男爵が契約書を義父に渡す。義父が一枚一枚丁寧に内容の確認をする。
「――確かに破格の好待遇ね。で、うちのエディーにどんな危ないことをさせようとしているの?」
義父の声が怒気をはらんでいる。
「いえ、任務自体に危険はないはずです。任務遂行中の身の安全に関してはこちらで警備をつけさせて頂きます。」
「この子が得意なのは、戦闘魔法よ。呪いを解くなら、他の術師がいいでしょう?うちも跡継ぎの教育も時間が必要なんだけど。」
すると、サリーン男爵が頭を下げた。下げ過ぎて、テーブルに額がつきそうだ。
「この呪いは大変特殊なものでして、エディット様でなければ解けないのです。"主"、いえ、ひいてはこの国のためです。よろしくお願いします。」
「だってよ、どうする?エディー?」
「頭を上げて下さい。サリーン男爵。どのくらいお役に立てるか分からないですが、私でよければ協力いたしますわ。」
「ありがとうございます。」
せっかくここまで逃げて来たのに、まためんどくさいことに巻き込まれてしまった。




