12. 手紙
大会の後、自領に戻ると、我が家には大量の釣書が送られてきた。こうたくさんあると、目を通すのも億劫になる。今なら山積みの釣書に全く興味を示さなかったユングリングの兄の気持ちもよく分かる。
自室でシェルストレーム辺境伯考案の筋トレに励んでいると、義父が入ってきた。
「あんた、まだ強くなろうとしているの!?もう、やめてちょうだい。はい、釣書三枚追加よ。侯爵家、伯爵家、子爵家ね。どの方も婿入り希望ね。」
「婿入りならば、まずは義父上が選別なさって下さい。私はその中からお見合い相手を選びますから。」
「私は、かわいい我が娘が愛し愛される方と結ばれることを願っているのよ。家としての条件は二の次よ。」
「釣書では運命の相手なんか分かりませんことよ。」
「まあ、そうなんだけどね。誰かひとりくらい会ってみたいと思う人いないの?あ、そうそう。あなたのお兄様、アードルフ・ユングリング殿からもお手紙が来ているわよ。」
「え!兄上ですか?」
「それにしても随分分厚い手紙ね。どの求婚よりも熱烈だわ。」
兄はシスコンだ。兄の愛をなめてもらっては困る。早速渡された手紙を開けて内容を確認すると、はじめの数枚は、私への想いが高らかに情熱的につづられていた。こんなにすごかったっけ?私への愛の重たさにめまいがする。
気を取り直して、卒業舞踏会の顛末に目を通す。マティアス殿下は当日、私をエスコートすると約束しながら、妊娠中のライラ嬢をエスコートしていたそう。殿下の瞳の色、青いドレスに身を包んだライラ嬢が顰蹙を買わない訳もなく、本来もう一人の"主人公"だった私の不慮の事故も合い重なって、殿下が私を暗殺したのではないかと、貴族たちの不信感が一気に高まったそう。皇帝もこの事態を重く受け止めて、卒後すぐ予定されていた皇太子指名も延期になった。
当初の作戦では、私に冤罪を着せて、ライラ嬢と悲恋の恋人をアピールして、貴族たちの支持を得ようとしたのだろう。それで自分たちの関係が認められると思っていること自体、脳内お花畑過ぎる。まあ、いい気味である。
ライラ嬢のスパイ疑惑については、第二皇子・フレデリク殿下派のベルナドッテ公爵が、ボンデ伯爵に王都のタウンハウスが一棟買えるような額を資金提供して、徹底的に調査しているそうだ。
「皇帝陛下の体調も落ち着いて、マティアス殿下の皇太子指名は延期ですって。」
「まあ、あのクソ皇子?いい判断ね。あんなの皇帝に据えたら、国が傾くわよ。」
『エディット・ユングリング』が死んだことで、皇太子指名の必要条件に皇子妃にふさわしい女性を伴侶に選ぶことが追加されたらしい。もちろんその"ふさわしい女性"にライラ嬢は含まれない。
手紙を読み進めていくと、リアスのことも触れられていた。卒業後一時的な欠員が出たフィーラ帝都貴族学院の歴史学の教員に就任したシーラ様が、なんと校長室に忍び込んで、リアスの入学書類を確認してくれたらしい。その推薦人欄に署名していた帝国貴族は、皇帝陛下その人だった。
「リアスの推薦人が皇帝陛下?!やっぱり王族の方だったのかしら。」
「王族だとエリアス殿下があんたと同い年だけど、フィーラに留学したなんて話聞いたことがないわよ。」
「――そっか。」




