7. 少年
「エディー!もう~!寒かったわよ。変な魔法使わないで。」
試合が終わると、闘技場の袖から義父が駆け寄ってきた。見上げると、まだ闘技場のところどころに氷や霜が残っている。すかさず魔力補給ポーションを渡された。
「うわあ、またこれ。まずいんだよな。」
さっきは会場全体を凍らせたから、それなりの魔力を使った。決勝戦を考えると、ちゃんとポーションを飲んでおいた方がいいだろう。意を決して口に流し込むが、何とも言えない苦みと青臭さが漂った。
「そういえば、あんたが勝つんじゃないかって、魔法大会で賭博している連中が阿鼻叫喚よ。」
「いきなり出場が決まった、どこの馬の骨かも分からない令嬢に賭けるなんて、まずないでしょうから、すごい倍率になってそうね。」
義父と準決勝第二試合を見るために、観客席に向かって歩いていると、白髪に赤目の6歳くらいの少年が駆けて来た。そのまま突進してきて、目の前で尻もちをついた。
「ぼく、だいじょうぶ?泣かなくてえらいね。」
そう声をかけて、しゃがみ込む。立ち上がるのに手を貸してやる。まるで兎みたいにかわいい子だ。
「おねえちゃん、ありがとう。」
少年は私の眼を覗き込んだ。その瞬間、キラッと金色に瞳が光った。
「――ここにいらしたんですか?」
先ほどの対戦相手、サリーン男爵だ。
「あら、サリーン男爵の息子さんですか?かわいい子ですね。」
「いえ、親戚の子です。ユカライネン伯爵、伯爵令嬢、ご迷惑をおかけしました。」
そのまま、サリーン男爵は少年の手を引いて去っていった。
「前回優勝の第三王子のエリアス殿下が今年は出場していないし、あんた本当に優勝しちゃうんじゃない?」
「エリアス殿下?」
「エリアス殿下はね、王族の中でも魔力量が突出していて、子どもの頃から神童と呼ばれて有名だったの。昔は粗削りだったけど、最近は精霊契約もして、魔法の精度も増したって評判よ。今は魔法研究所の長に就いているわ。仮にあんたが相手だとしても、彼が負けるなんて想像できないわね。」
「うふふ。義父上、私全属性の魔法が使えて、精霊だって召喚できるのよ。」
「あんた、やっぱり底が知れないわね。本当、フィーラ帝国は馬鹿だわ。」
「そうそう。馬鹿なのよ。あのクソ皇子。」
すっかり義父に毒されて、妃教育を受けた人間とは思えない軽口をたたくようになっていた。




