4. 王都
明日の試合に向けて、今日は朝から王都に向かう。母の実家であるトヴォー王国ユカライネン領を訪ねる機会は何度もあったが、王都は初めてだ。帝都とは違って、古い建物が多く、屋根の色もカラフルでかわいい。思わず馬車の窓から見える景色に見惚れていると義父が口を開いた。
「今日はね。フランをタウンハウスに招いて、食事するんだけど、彼にエディーを紹介してもいいかしら?」
フランというのは、義父の現在のパートナーで音楽家の彼だ。
「ええ、もちろんですわ。」
馬車がタウンハウスに着くと、王都の使用人たちが勢ぞろいして出迎えてくれた。
「伯爵、そしてエディーお嬢様。お帰りなさいませ。」
「皆さん、よろしくね。」
王都のタウンハウスの庭は色とりどりの季節の花が咲いていてとても美しかった。
「美しいお庭ですね。自領の本邸も同じようになさればいいのに。」
「ああ、これはうちの土魔法が素晴らしいものですよっていう貴族的なアピールも兼ねているのよ。本邸の方はめったに人が来ないからね。私はああいう素朴なものもいいと思っているよ。」
確かに本邸の庭は豪華な花が咲くことはなく質素だが、生い茂る木々と広々とした芝生が心地よい。義父は木陰で読書するのが余暇の楽しみだと言っていたっけ。
その日の夕食では、フランを紹介された。金髪の巻き毛に碧眼、貴族といっても分からないくらい美男子だ。ビオラという弦楽器を演奏しているらしい。音楽についての一般教養は妃教育で習ったが、自分自身はあまり楽器演奏は得意ではない。自分と違うカルチャーの中に住む彼の話はどれもとても興味深い。義父もニコニコとその話を聞いていた。
食事が終わり、今で歓談を続けた。私はふと気になって彼の未来を視た。
一回り年を重ねた彼が視えた。金髪の美しい女性と仲良さそうに話している。相手は夫人だろうか?彼によく似た子どもたちに、楽器を教えている。幸せそうな家族に見えた。そこで夢から醒めた。つまりは義父とは仮初の関係なのか。義父との関係がどういう終わりを迎えるのかは、分からないけれど、幸せそうに話す今の二人を見て、私から何かを伝えるのはやめようと思った。
「何?エディット、ぼーっとして。」
「ううん。何でもないわ。」
自室に戻ると、明日の試合での作戦を練った。実家、ユングリング家は氷魔法の使い手として国内外を問わず有名だ。もちろん、私が得意なのも氷魔法。リアスとやり合う時は、思いっきり戦いたくて、相性をあまり考えずに氷魔法ばかりを使ってきた。氷魔法なら他の属性の何倍もの威力を放つことができるが、連続して使った場合、間違いなく悪目立ちしてしまう。そこからユングリング家との血縁を疑われる可能性まである。
この大会は社交も兼ねていると義父が言っていた。ならば、戦闘というより農耕に有利と言われる属性の魔法、土魔法や風魔法をわざと使って、"貴族的なアピール"をするのも悪くないと思った。




