3. 準備
応募締切はとうに過ぎていたらしく、義父に言われるがままに選手登録を済ませると、数日後早くもトーナメント表が届けられた。義父にとっても、私の亡命はまさに渡りに船だったというわけだ。
大会のルールは単純明快で、禁術以外の魔法はすべて使用可能。ただし試合中のポーション、持参の魔道具の使用は禁止。各選手は大会本部から配布される防護のペンダントを胸に着ける。ペンダントは選手が致命傷になるような攻撃を受けると、赤く輝き破裂、結界魔法を展開して選手を守る。その時点で選手は敗退となる。ちなみに、この魔道具の防護性能は王立魔法研究所の折り紙付きで、これまでの大会で死傷者が出たことはないという。
私はトーナメント表を眺めながら、義父から有力選手の説明を受ける。ただ義父はもともと争い事に興味がない人で、世間話が多い。
「義父上、もっと魔法の話をして下さい。」
「だからいいの、勝たなくて!ユカライネンの土魔法は、畑を耕してなんぼよ。」
そうは言われても、私は負けず嫌いだ。どんな勝負事も必ず勝ちたいと思ってしまう。それに、この大会に優勝することはとても名誉なこと。王家から勲章も授与されるらしい。
そういえば、リアスと模擬試合でもつい熱くなっていたっけ。「そうだ、リアス!」と思って、トーナメント表でその名前を探したが、リアス・ベックマンの名はどこにもなかった。
「やっぱり、リアス・ベックマンって名前はないわね。」
「試合の後には、パーティーもあるから、そんなに気になるなら、そこでその方を探してみたら?」
「分かったわ。そうする。あと、フィーラの兄上にも少し調べてもらおうかしら。」
トヴォーに着いたらすぐに手紙を書くと、兄に約束していたのに、なんだかんだ忙しく、後回しになっていた。兄は卒業後すぐに自領へ戻って領政の手伝いをしているはずだ。卒業舞踏会の顛末やマティアス殿下、皇宮の様子も気になった。
自室に戻って、トヴォー王国に無事着いたこと、こちらでの義父上との生活の様子、今度王家主催の魔法大会に出ること、そして、リアスの正体が分からないことを、手紙にしたためた。通信に使える魔法はいくつかあるものの、やはり手紙が一番安全で確実だ。最後に隠密魔法をかけて、宛先の人物しか開封できないようにした。
大会までの時間は案外少なかった。義父は勝負事よりも、後のパーティ―の方が気になるようで、たくさんのドレスやジュエリーをプレゼントしてくれた。そんな義父に試合に向けた実戦練習の相手を頼むのもためらわれ、自主練習に励んだが、あっという間に試合前日になっていた。




