27. 決行
郊外の待ち合わせ場所に着くと、ユカライネン家の執事・セバスティアンが出迎えてくれた。私たち兄妹が幼い頃、母の実家へ遊びに行っていた時はまだ執事見習いで、広い庭園でよく遊んでくれた彼も、今ではすっかり初老。ロマンスグレーの髪をポマードできっちりと撫でつけている。片眼鏡の奥の黒い瞳は変わっていない。
「エディーお嬢様、こちらです。」
「久しぶり、セバスティアン。準備は完璧そうね。これからよろしく頼むわ。」
「ええ、もちろん。新たにお仕えするお嬢様に失礼があってはいけないですから。」
一刻も早くトヴォー、ユカライネン領へ辿り着かねばならなかった。回り道になる新街道を避け、森の旧街道を進んだ。
「この辺りは盗賊も出ると聞きます。何人か護衛も付けております。必ずお嬢様の御身はお守りします故、ご安心下さい。」
セバスティアンの声に緊張感があった。
「あら、セバスティアン。この中で一番強いの私よ。盗賊なんて吹っ飛ばしてあげるから心配なさらないで。」
そうは言いつつ、馬車全体に隠遁魔法をかけておいた。無用な争いは目立ってしまう。おかげで、盗賊に見つかることもなく、三日三晩、睡眠以外休むことなく森を走り、国境沿いの関所にたどり着いた。
今回の旅路の一番の難所はこの関所だ。予め何らかの通達がない限り、出国の審査は厳しくはないはずだ。ただもし"企み"が明るみになっていなければ、ここで捕縛されるだろう。関所の護衛騎士が馬車を止める。
「出国の審査だ。書類を。」
セバスティアンが身分証明の書類をまとめて提出した。騎士は一通り書類に目を通すと乱雑に突き返した。
「うむ、行け。」
「――よかったわ。無事済んで。」
ほっとして、胸をなでおろす。トヴォー王国の方の審査も、あっという間に認められた。本来入国審査の方が時間がかかるものだが、さすがトヴォーの有力貴族ユカライネン家だ。関所を超えれば、ユカライネン領はあと少しだ。
「叔父上はお元気そう?」
「ふふ。お嬢様、これからは義父上ですぞ。伯爵はいまかいまかとお嬢様のご到着をお待ちになっておられます。」
まだ日が高い。このペースで行けば、夕暮れまでにはユカライネンの屋敷にたどり着くはず。
「着いたら、兄に手紙も書かないと。」
森を抜けると、田園風景が広がっていた。麦畑が風にそよぎ、金色の波がどこまでも続いている。私は車窓を眺めながら、新しい国での新しい生活に思いをはせた。
第一幕 断罪の夢、ここまでです。
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