24. 決意
調査書は内部告発をまとめたもののようだった。読み進めると、城内の人間関係をよく知らないとできない証言がずらっと並んでいる。さすがボンデ伯爵。情報源は殿下の側近の誰かだろう。
計画はこうだ。殿下はライラ嬢を連れて卒業舞踏会に参加する。私が彼女に毒を盛って、腹の子ごと殺害しようとしたと冤罪をかけて、公衆の面前で婚約破棄、その後裁判にかけられる前に馬車の事故に見せかけて暗殺する。これって――私が"夢"で視続けた光景と完全に一致していた。
「驚くほどのエディットの"夢"と一致しているだろう。私も驚いたよ。」
調査書を持つ手がわなわなと震えた。もう一つの"夢"を選び取るしかない。
「――私をトヴォーに亡命させて下さい。マティアス殿下や皇妃の椅子に未練はございません。」
「早まるな、エディット!手はあるはずだ。」
兄が叫んだ。向かいに座る母は手で顔を覆った。指の隙間から涙がこぼれ落ちていった。
「仮にその断罪を回避したとしても、マティアス殿下に関わる限り、私はまた命を狙われるでしょう。それに円満に婚約破棄できたとしても、次にこの国でまともな縁談を望めない。母上の実家、ユカライネン伯爵家は跡取りがいないと聞いております。幸い叔父上とは良好な関係を築けていますし、何かあったら匿って欲しいと以前からお願いしております。」
叔父は、母の実家であるユカライネン伯爵家を継いだ、年の離れた母の弟だ。妃教育が始まる前には、時折トヴォー王国の屋敷を訪れて、遊んでもらっていた。まっすぐな茶色の髪に緑色の瞳が美しい男だが、男色家ゆえにとうに三十歳を超えているのに未婚である。跡取りは縁戚の家からとると宣言している。
「エディットの覚悟は分かった。ただし、お前は妃教育を終えた身。皇宮がやすやすお前を国外に出すとは思えん。――ただ考えがないわけではない。少しばかり準備が必要だ。時間をくれないか、エディット。」
「父上。一つお願いがあります。学院の卒業式には参加させて下さい。次に活かすことができなくても、この国の一番の教育機関を卒業したという矜持を持ちたいのです。」
「分かった。エディット。お前の望みだ。なるべく叶えてやれるよう尽力するよ。」
父は政略に長けている。難しい局面だが、きっと上手く対応してくれるだろう。父のその言葉を頼もしく思った。




