『忘却の都市』 秩序の真実
そこは、まるで巨大な保管庫のようだった。
恐らくここは、施設の“裏口”に近い場所なのだろう。
周囲に、人の気配はない。
霧崎は息を詰め、夏希は無意識のうちに拳を握りしめていた。
悠人は——動揺を隠せぬまま、その場に立ち尽くしていた。
「……おいおい、すごい量だな。これ。」
悠人が思わず声を漏らす。
無理もない——霧崎も、全く同じ感想だった。
慎重に周囲を見渡しながら、霧崎はある棚に目を向ける。
「……都市の記録……?」
霧崎が呟く。
棚のラベルには、識別番号だけが無機質に並んでいた。
逡巡し、そのひとつに、静かに手を伸ばす。
……そこには、タグがついていた。
『被験者記録』
その文字を見た瞬間、霧崎の指先がわずかに震えた。
ゆっくりとファイルを開き、目を走らせる。
記されていた内容——
それは、小林副隊長がメッセージで残した通りの、被験者の記録だった。
住民の詳細な履歴。
矯正措置の経過。
記憶の改変履歴。
矯正措置の経過や記憶の改変と思われる箇所は黒塗りされ、巧妙に隠されていた。
だが、文脈から判断するに——そこには確かに、その痕跡が記されている。
全てが.......整然と管理されている。
その瞬間——奥で、夏希の声が響いた。
「……うそ……」
霧崎は、夏希の方へ目を向ける。
彼女の表情が凍り付いていた。
まるで、信じたくないものを見たように——。
夏希が見つめていたファイルには、こう記されていた。
『都市警備隊について』
霧崎の背筋に、冷たいものが走る。
夏希は、ファイルを握りしめたまま、微かに震えている。
何が書かれているのか——
そして、それが何を意味しているのか——
“都市の秩序”を担う者たちの真実が——今、明かされようとしている。




