『忘却の都市』 交錯する運命2
カフェで悠人と合流し、俺たちは静かに目的地へ向かった。
悠人は片手に、小さなケーキの箱を提げていた。
「これから夏希さんに会うんだから、手土産ぐらい用意しとかないとな!」
張り切った様子で、箱を誇らしげに掲げてみせる。
俺は苦笑しながら歩を進めた。
都市の中心部を抜け、次第に人通りが少なくなる。
「あれ? ここ、どこ……?」
悠人は落ち着かない様子で、周囲をきょろきょろと見回した。
「まさか……俺、騙されてるんじゃないか……?」
半ば冗談めかして言いながらも、微妙に落ち着かない様子だった。
そして——目的の場所へ到着する。
階段を下り、重い扉を開ける。
そこに、夏希はいた。
悠人の目が、一瞬驚きに見開かれる。
「……本当に、いたんだ……」
まるで幻でも見たかのように、悠人の目がわずかに揺れた。
だが、すぐに気を取り直し、ぎこちない仕草でケーキの箱を差し出す。
「あの、これ……よかったら……」
夏希は、ふわっと表情を和らげる。
「えっ、ありがとう!」
迷いなく受け取る。
悠人は、まだ少し戸惑いながら尋ねた。
「……あの、ここって……夏希さんの家だったり、します?」
沈黙。
夏希は、ほんの一瞬だけ、表情を動かさずに見つめる。
「……そうだよ。」
その一言に、悠人の動きが止まった。
「えっ……?」
戸惑う表情。
霧崎は、少しだけ目線を逸らす。
すると——
「……ぷっ。」
夏希が突然、吹き出した。
「うそ、うそ! 冗談だってば!」
悠人は、膝から崩れ落ちそうになりながら、安堵の息を吐いた。
「ああ、そっ、そうですよね! ここが家なわけないですよね!」
二人は笑い合う。
その光景を眺めながら、霧崎はふと懐かしさに似た感情を覚えた。
この都市の異質な空気の中で、こんな何気ない時間が、ほんの一瞬だけ“普通”に感じられる——そんな感覚だった。
だが——ひとしきり笑い終えると、夏希の顔が真剣に戻る。
「……せっかくケーキを持ってきてくれたし、これをみんなで食べながら話そうか。いい?」
俺と悠人は頷く。
そして——俺と夏希の二人で、“ここ数日の出来事”を語り始めた。
悠人に、この都市の真実を伝えるために。
その瞬間から、彼の運命は静かに、確実に変わり始めていた。




