『忘却の都市』 託された遺志
「……誰だ?」
霧崎は問いかけた。
だが、聞かずとも答えはすでに察していた。
ほぼ間違いなく——先程の話に出ていた車中の男だ。
通信の向こうの人物は、静かに言葉を紡いだ。
「……彼の協力者だ。そして今は——君たちの協力者でもある。」
夏希が僅かに目を細める。
霧崎は冷静に思考を巡らせる。
その口ぶりからして、こちらの素性はすでに把握されていると見ていい。
謎の通信といい、あまりに不自然なタイミング。
(……かなり警戒すべき相手だ。)
そう判断した。
夏希は端末を握りしめ、静かに言葉を投げた。
「それで……私たちに、何をさせたいの?」
通信の向こうから、ノイズ混じりの声が返る。
「……さっきも伝えましたが——君たちには、彼の任務を引き継いでもらいます。」
「つまり——都市のシステム中枢の所在を暴く。」
短く、決定的な言葉だった。
その瞬間、空間が張り詰める。
「……でも、実際どうすればいい?」
霧崎の声には、わずかな躊躇が滲んでいた。
(小林副隊長ですら失敗したのなら——俺たちに何ができる?)
それを察したように、通信の向こうの男は静かに答える。
「心配はいらない。」
「彼は、きちんと手掛かりを残してくれている。」
夏希が息を呑む。
「これから君たちには——」
男は一拍置き、ゆっくりと言葉を続けた。
「“作戦”を伝える。」




