『忘却の都市』 亡き者の遺言
長い沈黙のあと、霧崎がようやく口を開いた。
「……これは、本当に事実なのか?」
その言葉が、静かに空間に染み渡る。
夏希が僅かに顔を上げる。
「……小林副隊長は、冗談を言うような人じゃなかった。」
夏希の声は、静かだった。
「事実で間違いないと思う。」
そう言って、再び沈黙が訪れる。
俺は考えを巡らせる。
この都市の真実。
住民の記憶改変。
犯罪者を“管理”するために作られた都市——。
すぐには受け入れられなかった。
それに、たとえこれが真実だったとして——俺たちに何ができるのかも分からなかった。
手がかりがあるとすれば——小林副隊長の話に出てきた、車中の男。
だが——。
その時だった。
夏希の端末に通信が入った。
俺は息を飲む。
ここは、電波がほとんど届かない場所だ。
通常、メッセージ以外の外部通信が入るはずがない。
夏希と無言で視線を交わす。
おそるおそる、夏希は端末を取り上げ、通信に出る。
次の瞬間——
「……あー、あー、聞こえてますか?」
ノイズ混じりの低い声が、端末越しに響いた。
「都市の真実を知った人へ。」
俺と夏希は、息を詰めて端末を見つめる。
「これから、あなた……いや、あなたたちに——」
「彼が遂行できなかった任務を、引き継いでもらいます。」
沈黙。
霧崎は、静かに目を細めた。
夏希の指先は、無意識のうちに端末を強く握りしめていた。
この通信の発信者は誰なのか——
そして、この任務とは——
映像よりも、さらに深く、暗い闇へと引き込まれていく。




