『忘却の都市』 亡き者の決意
「——この都市の中枢システムの所在を暴くための協力者が欲しい。 それが、あの男の提案だった。」
まず、一度都市を離れ、二年後に再び戻るよう指示された。
その際に必要なものはこちらで用意する——そう、男は言った。
「……林にも、同じ提案をしているのか?」
私は林の事が気になり質問すると、男は、少し間を置いて答えた。
「彼は、あなたとは別の車に乗っている。 恐らく——通常通りの“対処”が下されるでしょう。」
その言葉に、わずかだが動揺した。
だが......
「……今は、この男の言葉を信じるしかない。そう思って、私は受け入れた。」
映像の中の小林副隊長が、息をつく。
「そして、今——私はこの都市に戻ってきた。」
沈黙が落ちる。
「本部の上層部が今月、会合を開くという情報を得た。 本部に潜入し、そのうちの一人でも拉致できれば——システムの中枢の場所を聞き出せるはずだ。」
「——もし失敗した場合、私は自害する。」
その声は、静かに空間を震わせた。
「あの男との約束だ。情報を抜き出されるくらいなら、それしかない。」
「……この映像が再生されているということは——私はすでに、この世にいないのだろう。 そうなるよう、あらかじめ設定しておいた。」
その言葉に、霧崎と夏希は僅かに震えた。
「この映像を見ている者が——本部の人間でないことを、心から祈る。」
静かに、画面が薄く揺れる。
「——以上。」
映像が淡く滲む。
次の瞬間——
記録映像は、完全に途切れた。
霧崎と夏希は、その場にただ——深い沈黙を残したまま、立ち尽くしていた。




