『忘却の都市』 裏切りの夜
この件は、さすがに自分ひとりでは抱えきれなかった。
そう判断した私は、信頼できる二人——城戸と林にだけ、この事実を打ち明けた。
「……この都市は、ただの都市じゃない。」
その言葉に、二人は眉をひそめた。
すでに隊員の数は増えていたが、この話はあまりにも重すぎた。
今はまだ、城戸と林だけに伝えるべきだと判断した。
「……そんなことが……」
林は、愕然とした表情で呟いた。
「都市がそんな仕組みで動いていたなんて……」
城戸もしばし沈黙の後、小さく頷いた。
「……真偽を確かめるしかないな。」
そこで決まったのは、本部に潜入する計画だった。
「記録だけじゃ足りない。確実な証拠を持ち帰る必要がある。」
それが、唯一の選択肢だった。
——だが、その夜。すべては崩れ去る。
計画では、先に林と私の二人が本部へ潜入し、城戸が外部からセキュリティを解除する手筈だった。
しかし。
「……やつは、裏切った。」
小林の語気が、わずかに硬くなる。
「いや——最初から、本部側の人間だった。」
映像の中の彼は、目を伏せたまま続ける。
「この実験のことを知っていて、なお——それを気にもかけず、平然としていた。」
都市の秩序を維持することだけが重要だった。
人間の尊厳など、城戸にとってはどうでもいいものだったのかもしれない。
まるで——犯罪者など、過去に罪を犯したのだから、この処理に何の問題もないと言わんばかりだった。
油断していた我々は、何もできずに捕えられ、連行された。
「記憶を消されるのか——」
その覚悟を決めた瞬間、想定外の事態が起こる。
「……林と私は、別々の車に乗せられ、都市の外部へと連れ出された。」
「状況が飲み込めず、混乱していたとき——車の中の人物が口を開いた。」
車中の男が、静かに言葉を紡ぐ。
「……あなたは、都市の事実を知ってしまった。」
「申し訳ないが、あなたは記憶を消されるか……存在そのものを消されることになるでしょう。」
車の中に、沈黙が落ちる。
「だけど、私も完全にあの都市のやり方に賛同しているわけではない。」
男が、淡々と続ける。
「犯罪者の更生施設としては、確かに完璧です。 だが——その方法が正しいとは、どうしても思えない。」
「いくら犯罪者だったとしても——人権を完全に無視したこの管理システムが続くべきだとは思わない。……そこで、あなたに提案があります。」




