『忘却の都市』 円卓の声
ここは、最深部。
窓も時計もない密閉空間。
そこには、時間の流れすら凍りついたような静けさが漂っていた。
中央に据えられた重厚な円卓。
その周囲を、6人の人物が等間隔に囲んでいる。
進行役と思しき最年少の男が、手元の資料を確認すると、静かに告げた。
「……本日の議題は、ここまでとします。皆様、お疲れさまでした。」
その瞬間、場の緊張が一気に解けたわけではない。
だが、確かに、誰かが小さく息を吐く音があった。
「やっとか」とでも思ったような、わずかな気配の緩み。
しかし——
「なお、念のためご報告を。」
進行役の声が、再び空気を張り詰めさせる。
「昨日、都市内で小規模ながら暴動が発生いたしました。死者は出ておりませんが、複数の負傷者が確認されています。」
円卓の空気が、再び静かに引き締まる。
「負傷者の中には、都市警備隊員が3名含まれております。 なお、暴動はすでに鎮圧済み。首謀者と目される人物は現在、拘束中です。」
「……負傷した隊員は誰だ?そして、鎮圧したのは——やつか?」
一人の男が低く問いを投げた。
進行役は頷き、画面を一度確認してから告げた。
「6番、7番、8番の三名です。いずれも命に別状はありません。 復帰には数日の経過観察のみで済む見込み。……また、鎮圧を実行したのは、1番です。」
それが告げられた瞬間、全員の口からわずかな吐息が漏れた。
それは諦念か、安堵か、それとも——
「また1番か……」
「そろそろ次世代を育てる時期だ。彼ももう若くはないだろう。」
「とはいえ、あの男は……異常だ。再現は……難しい。」
「だが、現場への依存が常態化していることは、もはや危険でもある。 このまま放置すれば、いずれ綻びが生じる。」
重く低い声が、順に円を巡るように漏れていく。
静かな議論の終わり際、もう一人の人物がぽつりと投げかけた。
「……そういえば、今回の首謀者は誰だったのだ? 1番を投入しなければならなかったというなら、それなりの相手だったはずだが。」
進行役は、しばし躊躇うように視線を伏せると、言葉を落とした。
「……現在も調査中です。しかし恐らく、いえ——ほぼ間違いなく、元2番です。」
静寂が、反響のように空間の隅々まで染み渡る。
そして——どよめき。
「……2番だと?」
「彼は……たしか以前1番が……」
「ここにはいなかったはずだ……」
「……何があった……?」
憶測と不安が、目に見えぬ煙のように空間に広がっていく。
「——皆さま、落ち着いてください。」
進行役の声が、その揺れを切り裂くように響いた。
「詳細は現在も精査中です。 結果がまとまり次第、新たな会合にて再度報告いたします。」
静けさが戻る。
だが、それは決して穏やかなものではなかった。
そして、翌朝——事件が起きる。




