表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
忘却の都市  作者: HANA
記憶の深層へ
64/152

『忘却の都市』 指導者の背中

「……厳しい人だったよ。ほんとに、びっくりするぐらい。」

夏希の声が、少しだけ柔らかくなった。

「口数は少なくて、何を考えてるのかまるで分からなくて。子ども相手にも容赦ないし、隊長とは正反対って感じだった。」

けれど、そこに滲むのは反発ではなかった。

むしろ、懐かしさと敬意——そして、わずかな喪失の影が滲んでいた。

「……でもね、不思議と嫌じゃなかったんだ。誰よりも、ちゃんと私を“見て”くれてるのが伝わってたから。 訓練でボロボロになった私に何も言わずに手を貸してくれて……。

「『泣きたくなったら時間外にしろ』って言いながら、背中を向けたその手で、そっと水を差し出してくれたこともあった。」


俺は一言も挟まなかった。

ただ、その静けさのなかで彼は確かに感じていた。

夏希の言葉ひとつひとつに、信じていた人の重さが宿っていることを。


「……だけどね、ある日突然——小林副隊長と、もうひとりの隊員が姿を消したの。」

霧崎の眉が微かに動いた。

「……いなくなった?」

「うん。まるで、何の前触れもなく。最初は、体調でも崩したのかなって思ってた。でも……何日経っても帰ってこなかった。 不安になって、他の隊員や隊長に聞いたんだけど、みんな曖昧なことしか言わないの。」

夏希の声に、かすかな湿り気が混じった。

「で、ある日。巡回中に、偶然住民の会話を耳にしたんだ。」


「なあ、あの噂……本当なのか?例の警備隊の話。」

「いや……詳しくは知らないが、たしかにこの数日、その2人の姿を見てないな。」

「おいおい……マジかよ。ちゃんと機能してるのかよ、この都市……」


その話を聞いたとき、思わず声をかけてしまってた。

夏希は短く息をついた。

「……ねえ、今の話、どういう意味?」

住民たちは一瞬、しまったというような顔をした。

この都市では都市運営に関する疑念や不満を口にするのは、暗黙のうちにタブーとされている。

けれど、そんなことは夏希にとってどうでもよかった。

「ねえ、詳しく聞かせて。——何があったの?」

その瞬間から、彼女の中に——小さくても、確かに無視できない疑念が芽生えはじめていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ