『忘却の都市』 コンクリートの静寂
この部屋に来るのは、これで三度目だろうか——。
灰色の壁。ひんやりとした空気。外界から切り離された、無機質な静寂。
霧崎が扉を開けると、すでに夏希が部屋の奥で座っていた。
「お、きたね。」
軽く手を振るその表情は落ち着いて見えたが、どこかに疲れの色も滲んでいた。
「医務室を抜け出して、大丈夫なのか?」
霧崎がそう訊ねると、夏希は肩をすくめて答えた。
「大丈夫、大丈夫。ちょっと巡回に出てくるって言っといたから。」
(怪我人が巡回……これが都市警備隊の“常識”なのか……)
そんなことを考えていると、夏希の表情が急に引き締まった。
「さて、それで……少し聞いてほしいことがあるんだ。」
その言葉に眉を上げる。
「合わせて、念のために端末の通信もオフにしておいてほしい。」
その言葉に、霧崎は内心の警戒を強めつつも、頷いて操作する。
無音のまま通信が切断されたことを確認し、そっと顔を上げると——
夏希の目がまっすぐ、自分を見つめていた。
「それじゃあ……少し、私がこの都市に来た頃の話をさせてもらうね。」
語るようで、探るようで——夏希の声は、記憶の深層を静かにたどりはじめた。




