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忘却の都市  作者: HANA
静寂の裂け目
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『忘却の都市』 微細な兆し

夏希は、もう一度端末を見つめた。

こんなものをつけた覚えはない。誰かに、つけられた……?

いや、——端末をこれまで人に預けたことはない。

「……でも……」

脳裏の奥に、微かな違和感が引っかかっていた。

誰かがこの端末を触った記憶。


……いや、ある。しかも、つい最近——二度も。

一度は、目の前の霧崎。

けれど彼は、まだ都市に来たばかり。

端末の構造を理解しているとは思えない。

もう一度は……。

「……仮面の人物……」

戦闘中、運悪く落としたあの瞬間。 拾い上げ、無造作に投げ捨てられた。

——なぜ、壊さなかった?

仮面の下にあった、あの顔。

(……まさか、あの時……)

疑念が、静かに胸の奥から這い上がってくる。


霧崎は、黙って様子を見ていたが、ついに耐えきれず声をかけた。

「……大丈夫か?まだ無理しない方が……」

夏希は顔を上げ、真剣な眼差しで霧崎を見る。

「ごめん、ちょっと考え込んでた。」

そして、少し間を置いて言葉を続ける。

「明日あの場所に行こうと思う。付き合ってくれる?」

「——あの場所、って?」

霧崎の問いに、夏希は短く言った。


「例の、お気に入りの場所。」


その目には、揺らぎを残しながらも、確かな決意の光が宿っていた。

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