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『忘却の都市』 静寂の境界線
白。
目を開けると、天井は白く整っていた。
規則的に響く電子音。
静けさと薬品の匂いが漂うこの空間は——医務室だった。
思考が、すぐには追いつかない。
次第に、身体の節々に痛みが戻ってくる。
特に、脇腹——鋭い痛み。
それでも、意識はある。
まだ——生きている。
(ここは……)
ぼんやりとした視界の中、戦いの記憶が断片的に蘇る。
——仮面の人物。 ——限界まで追いつめられた自分。 ——通じない攻撃。 ——そして、城戸隊長が来てくれて——
意識が朦朧としていたが、隊長に吹き飛ばされた人物は仮面が割れていた。
その下から現れた顔は、懐かしくて、信じがたかった。
(……あれは、やはり…小林……副隊長……?)
かつての記憶。なぜあの人があの場にいたのか理解出来ない。
扉の前にいた隊員はどうなった? 城戸隊長は……? 霧崎は、無事?
問いが次々と浮かぶ。けれど、頭が追いつかない。
「……目が覚めたか。良かった。」
部屋の隅から、小さな声が聞こえた。
ふと視線を向けると——そこには、霧崎が静かに立っていた。




