『忘却の都市』 暴かれた影
「……大丈夫……ではなさそうだが、動けるか?」
霧崎が駆け込んできて、膝をついたままの夏希に声をかけた。
夏希はわずかにふらつきながらも、意志だけは途切れさせずに頷いた。
そのすぐ後ろから、静かに声が届く。
「進藤君、遅くなってすまない。」
——城戸隊長。
白髪を揺らしながら、力強く歩み寄り、霧崎に向かって言った。
「霧崎君、彼女を連れて、今すぐここから離れなさい。」
俺は無言で頷き、夏希の肩を支えながら、デバイスを起動する。
「……っ、二人は……」
夏希が掠れた声で問いかける。
「扉の前にいた警備隊の……二人は……?」
俺はすぐに応えた。
「安心してくれ。すでに医務室へ搬送済みだ。」
「……そっか……よかった……」
その言葉を最後に、夏希は静かに意識を手放し、俺に身を預けた。
彼女を抱え、その場を素早く離脱する。
——残されたのは、深くひび割れた床と、破壊された空間。そして。
ゆっくりと立ち上がる仮面の人物。
いや——仮面は、すでに割れていた。
砕けた仮面の下から現れたのは、かつて警備隊で誰よりも厳しく、誰よりも信頼されていた——あの男の顔だった。
しばし見つめていた城戸は、静かに言葉を落とした。
「……小林君。いや……小林元副隊長。」
その瞳に宿っていたのは、怒りでも驚きでもない。
かつての仲間を見つめる、静かな覚悟だった。




