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『忘却の都市』 隊長の一撃
夏希は覚悟を決める。
たとえ勝てなくても、せめて仮面を砕き、この男の正体を暴いてやる。
最後の一撃に全てを込め、身を沈めて踏み込もうとした——その時。
仮面の人物の視線が、ふいに逸れた。
明らかに、自分ではない“何か”に意識を奪われていた。
わずかに構えが緩んだその瞬間——
轟音。
爆風のような衝撃が、空間ごと叩きつけた。
仮面の人物の身体が、まるで撃ち出されたかのように吹き飛ぶ。
背中から床を滑り、そのまま壁に叩きつけられて止まった。
夏希の目の前。
そこには、一人の男の背中が立ちはだかっていた。
白髪。無駄のない姿勢。そして、揺るぎのない気配。
この都市の設立当初から第一線に立ち、数多の異常をくぐり抜けてきた男
——城戸隊長が、そこにいた。




