『忘却の都市』 隠された階層
「……ここは一体?」
思わず、玲奈の口から言葉が漏れた。
工藤が振り向く。
「玲奈っち、ここに来るのは初めてか。」
短く言い、少し考えた後に続けた。
「まあ、私も来るのはまだ二度目だけどね。」
田中がそれを受け、説明を始めた。
「ここは、我々がいたフロアよりさらに機密性の高い情報を扱っている場所だ。」
玲奈は息を詰める。
「我々のいた上階のフロアも、かなり厳重なセキュリティが敷かれている。先程も言ったが仮に侵入者がきても——恐らく、施設の内部に入る事すら難しいだろう。」
淡々とした言葉。
しかし、その後に、田中先輩はもう一つ付け加えた。
「ただ、ここはさらに安全だと思っていい。」
その言葉に、玲奈は無意識に周囲へ視線を巡らせた。
周囲を見渡す。
——静かだった。
まるで、先ほどまでの慌ただしさが嘘だったかのように。
遠くからでは何をしているのかまでは分からないが、部屋の中の職員たちは黙々と作業を続けている。
焦りも、不安も、その顔には一切浮かんでいなかった。
玲奈は、そのギャップに戸惑いながらも、わずかに息を整えた。
その時、中の職員がこちらを見て、静かに言った。
「こちらへどうぞ。」
玲奈たちは別室へと案内され、しばらくの間、そこで待機することになった——。




