『忘却の都市』 静かすぎる都市
この都市に来て、初めて“異音”を聞いた。
——サイレンの音。
不吉な音が、都市の静寂を鋭く裂いた。
「緊急事態発生、緊急事態発生。住民の皆様は直ちに避難してください。」
機械的なアナウンスが都市全体に繰り返される。
俺は何が起きたのか分からず、動揺する。
しかし、隣の夏希はすでに冷静になっていた。
「私は爆発の被害状況の確認と住民の避難を優先する。」
判断も行動も、迷いがなかった。
そして、霧崎には5人の見張りを託した。
「霧崎はここに残って。」
短く言い残し、夏希はその場を離れた。
霧崎はわずかに息を吐く。
その時——。
捕らえた中のひとりが、低く口を開いた。
「……お前、見ない顔だな。」
俺は、ゆっくりと視線を向けた。
男は続ける。
「最近、この都市に来たばかりだろ。」
何も答えない。
しかし、次の言葉にわずかに警戒心が走った。
「おかしいと思わないのか?」
予想外の問いに思わず聞き返す。
「……何が?」
男は薄く笑い——続けた。
「都市で突然爆発が起きて、サイレンが鳴っている。それなのに……静かすぎると思わないか?」
一瞬、息を止める。
無意識にデバイスを起動し、周辺の様子に耳を澄ませる——。
遠くから、かすかに悲鳴や足音は聞こえる。
しかし。
男の言う通り、それほどパニックになっているようには思えない。
男は、静かに言った。
「お前ら——いや、お前らだけじゃない。」
「みんな騙されてるんだよ。」
俺はその言葉を理解できなかった。
思わず問い返そうとした、その時——。
城戸隊長が現れた。




