『忘却の都市』 密室の作戦
俺と夏希は、都市の片隅、コンクリートに囲まれた地下室へと向かう。
ここは以前、霧崎がデバイスを初めて作動させた際に、意識を失って夏希に連れてこられた場所——。
そして今、そこで作戦を立てていた。
万が一、裏切り者が端末から情報を探っていた場合、漏洩のリスクを防ぐためだ。
夏希は端末を起動し、霧崎にターゲットとなる人物たちの顔や特徴を伝える。
「まず、指示通りカフェのスタッフからターゲットが入店した知らせを受けてスタンバイ。退店して、店から離れた後——霧崎がまず声をかける。」
静かな声。
「『少し話を聞かせてほしい。同行をお願いしたい——』そう伝えて。」
霧崎は頷く。
「で、大人しく従えばそのまま本部へ連行。もし反抗したら……。」
夏希は淡々と続ける。
「強制的に捕縛、連行する。」
その言葉の重さを感じながら、一つの疑問を口にした。
「5人が散り散りに逃げたら、俺だけじゃ捕まえられないんじゃ?」
しかし、夏希はあっさりと首を振る。
「強化デバイスの動きに、一般人がついてこられるはずがない。正直、霧崎1人でも2~3秒もあれば余裕で対処できる。」
「……なるほど。」
しかし、新たに別の疑問が浮かぶ。
「ただ……万が一、昨日の仮面の人物が紛れていたら?」
その言葉に、夏希は少しだけ表情を引き締めた。
「その場合は、霧崎だけじゃ対処できない。だから、その予備として私も同席する。」
そして夏希はさらに続ける。
「それともう一つ、保険として——城戸隊長も少し離れた場所からいつでも動けるようにしてもらう。」
その言葉を胸に刻み、静かに息をつく。
「……了解。」
短くそう答えた。




