『忘却の都市』 内部の影
しばらくその場に待機していると、夏希が戻ってきた。
近くまで来て、夏希は悔しそうに息をつく。
「……取り逃した。」
短くそう告げる。
それでも、すぐに態勢を整えた。
「隊長にも状況を伝えた。明日の朝、再度JACに集まるよう指示が出たよ。」
俺は静かに頷いた。
翌朝——。
城戸、夏希、霧崎の3人が再び集まった。
昨夜の出来事を報告する。
「昨晩、帰宅通路の途中、複数人の男女と思われる怪しい会話を聞きました。詳細までは聞き取り出来ませんでしたが、明日何かを実行するといったような様子でした。昨日、この場で受けた内容と関係性がありそうでしたので進藤隊員に報告しようとした瞬間——謎の仮面の人物が現れました。」
その言葉には、昨夜の恐怖がわずかににじんでいた。
「その仮面の人物の動きは普通じゃありませんでした。恐らくですが……我々と同じようなものを使っているとしか思えません。」
夏希も補足する。
「一瞬しか見えなかったけど——身のこなしは確実に素人じゃなかったです。それと——隊長の名前を聞いた途端、やつは逃走しました。」
それらの言葉に、城戸はしばし考え込む。
短い沈黙——。
その後、城戸は口を開く。
「当初の計画は予定通り行う。」
それを聞いた夏希が、疑問を口にする。
「昨日のこともありましたし、向こうも予定を変えてくるんじゃないですか?」
しかし、その疑問に城戸は淡々と答えた。
「——おそらく、それはない。」
その言葉には、何か確信めいたものがあった。
俺は一瞬、視線を動かす。
しかし、城戸は何も言わなかった。
そして次の言葉は、さらに重いものだった。
「君たちも感じた通り——恐らく普通の相手ではない。となると、内部に裏切り者がいる可能性もある。」
霧崎と夏希は、思わず息を呑んだ。
「この件は他の警備隊員にも他言しないように。」
静かな指示。
——霧崎と夏希は頷く。
「了解しました。」
そして二人は、胸にわずかな疑念を抱えたまま、静かにその場を後にした——。




