『忘却の都市』 変化の瞬間
俺は反射的に身を固めた。
回避不能の一撃が迫った、その瞬間——
強い力が背中を引いた。
視界が一気に揺れる。
足が地面を離れ、視界が反転する。次の瞬間、背中から地面に叩きつけられた。
何が起きたのか理解する前に、聞き慣れた声が響く。
「ごめん、遅くなった。ギリギリだね。」
現れたのは夏希だった。
夏希は霧崎の端末から通信を受信したが、一向に応答がない事に違和感を感じたらしく、さらに付近で誰かが争っているような音を聞き、ここへ駆けつけたという。
霧崎はデバイスの反動でふらつきながらも、なんとか態勢を立て直した。
これで2対1。
しかし——。
仮面の人物は、慌てる素振りは見せなかった。
その余裕ぶりが、夏希の神経を逆撫でする。
「なんか余裕そうだね......こっちは都市警備隊2人だっていうのに。まあ、城戸隊長にも報告したからこの後3人になるけど。」
そう告げた、その瞬間——。
仮面の人物の雰囲気が一変した。
わずかに反応したのが分かる。
そして——。
突然、踵を返し、全力で立ち去ろうとする。
予期せぬ行動に2人は一瞬呆気にとられたが、すぐに反応した。
「逃がすか!」
夏希はすぐに追いかける。
俺も念のためデバイスを起動。
周辺の様子を探るが——。
先程までいたはずの、男女の集団の気配も消えていた——。




