『忘却の都市』 影の気配
JACを出た後、夏希は軽くこちらを見た。
「明日、具体的な役割分担の話をするよ。」
簡潔な指示。
俺は頷き、そのまま解散となった。
夜の街を歩きながら、訓練の一環として、もはや日課になった動作を繰り返す。
デバイスをオン——オフ。
短く起動し、すぐに切る。再び起動し、また切る……
これの繰り返し。
これが一番感覚を掴むのが早いと夏希に教わった。
しかし——その時。
遠くの路地から、複数人の声が微かに聞こえてきた。
男性の声。女性の声。雑音に混じって、不規則に耳へと流れ込んでくる。
最初はこういった音を聞き分けるのが難しかった。
だが、夏希のスパルタ訓練のおかげである程度ではあるが、特定の声を拾うことができるようになっていた。
断片的に、いくつかの単語が耳に届いた——。
「……明日…店…最後…実行に……」
無意識に息を詰める。
唐突に先ほどの城戸隊長や夏希の話が脳裏をよぎる。
——しかし、この声の主たちが本当に『例の集団』なのか、判断がつかない。
考えながら、端末を起動し状況を報告しようとした瞬間——。
目の前の空気が、静かに、しかし確かに揺れた。
ふと端末から顔を上げる。
そこには——。
仮面をかぶった謎の人物が立っていた。




