『忘却の都市』 悠人の執念
「でさ、夏希さんとは普段どこで会ってるの?」
悠人の勢いは止まらない。まるで何かに取り憑かれたように、次々と質問を投げかけてくる。
「……仕事だから、決まった場所ってわけじゃないけど。」
「じゃあ、普段どんな感じの人なの?」
「うーん……。」
俺は答えに困った。
そもそも夏希について、正直名前ぐらいしか知らない。
性格も普段は陽気な感じだが、たまにすごく冷静な時もある。
気づけば、悠人の質問にはほとんど答えられていなかった。
曖昧な返答ばかりが口をついて出る。
悠人はしばらく考え込んだあと、ふと顔を上げる。
「そういえば、店員の話題とか出なかったの?」
その時、店内でのやりとりを思い返す。
確かに、夏希は知り合いかどうか尋ねた——が、それ以上はまったく興味を示さなかった。
悠人に伝えるのは少し気の毒に思い、「知り合いかどうか聞かれた」という部分だけ答えることにする。
悠人は、その言葉に満足そうに頷いた。
「お、興味持ってくれたんだな!これは脈ありかも……」
俺は悠人に聞こえないように静かにため息をついた。
本当のところは、ほとんど興味を持たれていなかった——とは、とても言えない。
悠人の様子を見ながら、その時ふと、夏希に言われた言葉が脳裏をよぎった
——『聞いておいてほしいことがある』。




