『忘却の都市』 再会と動揺
俺は軽く息を整え、悠人に向かって声をかけようとした。
「久しぶ……」
しかし、その瞬間。
悠人の視線が霧崎を素通りし、その視線は俺ではなく——夏希へと向けられた。
彼の目が微妙に揺らぎ、言葉を失ったように固まっている姿に俺は違和感を覚える。
沈黙……
数秒の間、まるで時間が凍りついたかのようだった。
そして——。
「……おい。」
悠人がこちらに近づいてきて周りに聞こえないような小声で喋りかける。
「そちらの女性は?」
突然の疑問の投げかけに一瞬、考える。
「……仕事の上司。都市警備隊の指導員だよ。」
悠人はその答えに、ほんのわずかに眉をひそめた。
「そうか……。」
何かを頭の中で整理しているような間。
そして軽く俺の腕を引きながら、低くささやく。
「ちょっと、今日の夜、時間作れるか?」
「……時間?」
「話したいことがある。」
悠人の口調に少し違和感を持ちながらも、頷く。
「……わかった。」
その言葉を聞いた瞬間————。
「大変お待たせ致しました。2名様ですね、あちらのテーブル席にお座りください。」
悠人は何事もなかったかのように、急に笑顔を取り戻し、店内へと案内する。
一瞬、その切り替えの速さに戸惑うが、夏希は特に気にする様子もなく、店内へと進んでいく。
微かな疑問を抱きながら、俺は店の中へと入った。




