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忘却の都市  作者: HANA
日常という仮面
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『忘却の都市』 強化デバイスの初実践

「あ、言っとくけど。隊長ってあの堅物ハゲじゃないからね。」

歩きながら夏希が軽く言った。

「あいつはただのJACの職員だから。尊敬する人を勘違いされたくないから、一応ね。」

軽く肩をすくめる夏希に、その口ぶりから、やっぱりそうかと頷いた。


「で、昨日の話の続き。」

夏希の声が少しだけ変わる。

「最初に都市警備隊の条項、改めて言っとくね。」

俺は何となく背筋を正す。

「第一項。都市警備隊は都市の秩序と平和の維持を最優先にすべし。」

「第二項。都市の運営に関し、不平不満、疑問を持つ住民の行動、言動を確認した際は報告すべし。」

「第三項。尚、都市警備隊間において上記を確認した場合は、即座に捕縛、連行すべし。」


静かに息をのむ。

昨日と同じ内容だ。

しかし、こうして改めて口にされると、よりその意味が重く感じられた——。

「基本的にこれに基づいて働くのが、私たちの仕事ってわけ。」

夏希は何気なく言いながら、ふと歩を止める。

「そして、次は都市警備隊の職務を全うする上で重要なこの強化デバイスについて。」

昨日のことを思い出し、少し緊張する。

「昨日は誰かが、最後まで聞かなかったからね。」

「……それは、申し訳ない。」

「昨日、身を持って分かったと思うけど、これは慣れないうちは入ってくる情報量が多すぎて頭がパンクしちゃうの。視覚、聴覚、嗅覚…諸々ね。特に視覚に関しては段違いに脳の処理負担が増える。」

夏希は腕を組みながら言う。


「だから、慣れるまではしばらく目を閉じたままやってみて。」

俺は静かに頷いた。

「まずは試しに、目を閉じて3秒間歩いてみようか。」

「3秒……?」

「そう、3秒だけ。簡単でしょ?」

夏希の軽い言葉に促され、深く息を吸った。


——3秒間。


少しの間、意識を集中させ、デバイスを作動させた瞬間——。

目をつぶっているはずなのに、周囲の様子が不思議と分かる。

空間の流れ、距離、障害物……それらの“存在”が、まるで脳に直接描き出されるようだった。

何だ、これは。

微かに頭が痛むのを感じながら、ゆっくりと立ち止まり——振り向いて目を開けた。

夏希の姿が、すでに百メートル程後方にあった。


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