『忘却の都市』 巡回と警備隊
翌日。
昨日と同じ場所に向かうと、夏希がすでに立っていた。
「おっ、ちゃんと来たね。」
軽く手を上げる夏希の姿に、少しだけ緊張がほぐれるのを感じた。
「今日から、色々とレクチャーしてあげる。」
その言葉に頷くと、夏希は歩き出す。
「歩きながら話すよ。どうせ巡回もしなきゃだしね。まずは.......都市警備隊の話からかな。」
夏希が続ける。
「霧崎も含めて、都市警備隊は全員で7人いる。」
「7人……思ったより少ないな。」
「そうだね。でも、基本的に管轄エリアと勤務時間が違うから、ほかの隊員と絡むことはほとんどないよ。」
夏希は軽く肩をすくめる。
「名前すらほとんど覚えてないくらいだよ。何より、みんな真面目な仕事人間ばっかりでさ。つまんないんだよね。」
「真面目な仕事人間……?」
「うん。まあ真面目っていうより、秩序を守ることだけを意識してる感じかな。それ以外に何かがあるわけでもなく、何かを考えるわけでもない。だから、面白くないんだよね。ま、悪い人達ではないんだけど。」
少しだけ苦笑する夏希。
「だからさ、君みたいな、いじりがいがありそうな人が来てくれて、結構面白いと思ってるんだよね。」
「……いじりがいがある?」
「そう!」
夏希は冗談よと軽く笑っているが、複雑な気分になる。
「だけど、1人、尊敬する人がいる。」
「尊敬する人?」
「都市警備隊の隊長、『城戸 守』隊長。」
夏希の声色が、わずかに柔らかくなった。
「私がこの都市にやってきた時、よく面倒を見てくれた親みたいな存在なんだ。」
夏希はそう言って、どこか懐かしそうに微笑んだ——。




